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ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)は、信頼性のある学術誌を模倣し、研究者を欺く悪質な偽サイトです。これらのジャーナルは、学術コミュニティ全体に深刻な影響を与え、研究者のキャリアにもリスクをもたらします。本記事では、ハイジャックジャーナルの特徴やリスク、そしてそれらから身を守るための対策について詳しく解説します。学術出版の信頼性を守るために、正しい情報を知り、適切な対策を講じることが重要です。
目次
- 1. ハイジャックジャーナルとは?
- 1.1. ハイジャックジャーナルの定義
- 1.2. ハイジャックジャーナルの特徴
- 1.3. ハイジャックジャーナルの背景と起源
- 1.4. ハイジャックジャーナルの現状
- 1.5. クローンジャーナルとハイジャックジャーナルの区別
- 1.6. ハイジャックジャーナルによるリスク
- 1.6.1. 研究者への影響
- 1.6.2. 査読過程の問題点
- 1.6.3. 学術出版の信頼性への影響
- 2. 被害を防ぐための予防策
- 2.1. リストを利用した注意喚起
- 2.2. 登録時のチェックポイント
- 2.3. 信頼できる出版社の選定
- 3. ハゲタカジャーナルとは
- 3.1. ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナルの共通点
- 3.2. ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)とハゲタカジャーナルの違い
- 4. まとめ
- 4.1. 今後の課題と展望
- 5. 参考
ハイジャックジャーナルとは?
ハイジャックジャーナルの定義
ハイジャックジャーナルとは、正しく学術ジャーナルを発行していたジャーナルサイトを模倣して本物を装うことによって著者を欺く偽の学術サイトを指します。
サイバー犯罪者たちは、信頼ある学術誌の名称や外観(デザイン)を完全に盗用し、著者から高額な論文掲載料(APで)を徴収しますが、その後、姿を消すか、偽のジャーナルウェブサイトに論文を掲載するに留まります。
ハイジャックジャーナルの特徴
ハイジャックジャーナルは、研究者を欺くために巧妙な手法を用いて正当な学術誌を模倣します。その主な特徴は以下のとおりです。
ハイジャックジャーナルの特徴
- 本物そっくりのウェブサイト:正規の学術誌と見分けがつかないほど精巧なウェブサイトを作成します。デザインやレイアウト、ロゴ、さらには過去の論文情報まで再現し、信頼性を偽造しています。
- ドメイン名の乗っ取り:出版社が自社のURLドメインの更新を忘れたり、管理が不十分な場合、その同じドメイン名を取得し、不正なウェブサイトを運営します。これにより、研究者は公式サイトと誤認しやすくなります。
- 類似したドメイン名の使用:正規のジャーナルのドメイン名にごくわずかな変更を加えた類似ドメインを登録し、公式サイトに似せたウェブページを作成します。例えば、一文字だけ異なるドメイン名や、異なるトップレベルドメイン(.comや.orgなど)を使用します。
- 偽の連絡先情報とインパクトファクター:信頼性を高めるために、架空の編集委員会メンバーや偽の連絡先情報、さらには捏造されたインパクトファクターやインデックス情報を掲載します。これにより、研究者に高い評価を持つジャーナルであるかのような印象を与えます。
- 積極的な勧誘活動:メールやソーシャルメディアを通じて研究者に直接連絡を取り、論文の投稿を促します。この際、迅速な出版や高い可視性を約束し、投稿を誘導します。
- 高額な掲載料の請求:論文を受理した後、著者に対して予想外に高額な掲載料を請求します。支払いが完了すると、論文は適切な査読プロセスを経ずに公開されるか、最悪の場合公開されないままになることもあります。
このような手法により、ハイジャックジャーナルは研究者から不正に利益を得ると同時に、学術コミュニティ全体の信頼性を損なう深刻な問題を引き起こしています。
研究者は投稿先のジャーナルを慎重に選択し、公式の情報源や信頼できるチェックツールを活用して、ハイジャックジャーナルの被害を防ぐことが重要です。
ハイジャックジャーナルの背景と起源
ハイジャックジャーナルの問題は、学術出版のデジタル化とオープンアクセス(OA)の普及に伴い、特に COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック 以降、顕在化しました。
これらのジャーナルは、研究者が成果を迅速に公開したいというニーズに付け込み、信頼性の低いジャーナルとして運営されています。多くの場合、ハイジャックジャーナルは既存の信頼あるジャーナルの名称やISSNを不正に使用し、研究者に混乱を与えます。
ハイジャックジャーナルの現状
現在、ハイジャックジャーナルの数は増加の一途をたどっており、特に若手研究者や経験の浅い研究者がターゲットとなることが多いです。これらのジャーナルは、見た目のデザインやウェブサイトの構成に工夫を凝らし、信頼できる学術誌と区別がつきにくいことが問題です。また、インデックスデータベースへの不正な登録や、フェイクのインパクトファクターを掲示するケースも見受けられます。
クローンジャーナルとハイジャックジャーナルの区別
クローンジャーナルという言葉は、ハイジャックジャーナルを指す際に使われることがあります。
クローンジャーナルとは、既存の正当なジャーナルをほぼ完全に模倣し、正規のジャーナルと見分けがつかない偽のジャーナルです。実質的には、クローンジャーナルとハイジャックジャーナルは同じ概念を指し、両者に明確な違いはありません。いずれも、既存の信頼あるジャーナルを偽装することで研究者を欺き、学術界に深刻な問題を引き起こす悪質な出版形態です。
ハイジャックジャーナルによるリスク
研究者への影響
ハイジャックジャーナルに論文を提出すると、研究者のキャリアに深刻な影響を与える可能性があります。研究成果が正当に評価されず、研究者の信頼性が損なわれるリスクがあります。特に若手研究者や国際的に発表を行う研究者にとっては、非常に大きな問題です。
査読過程の問題点
ハイジャックジャーナルでは、査読過程が全く行われないか、非常に不十分であることが一般的です。このため、質の低い論文が公開され、学術界全体の信頼性を損なう結果となります。また、誤った研究結果が広まることで、学問の発展を阻害する可能性もあります。
学術出版の信頼性への影響
ハイジャックジャーナルの存在は、学術出版の信頼性全体に悪影響を及ぼします。正規のジャーナルとの区別がつきにくいため、学術コミュニティや一般社会からの信頼を失う危険性があります。
被害を防ぐための予防策
リストを利用した注意喚起
ハイジャックジャーナルに対する最も効果的な予防策の一つは、信頼できるリストを利用することです。
ハイジャックジャーナルを特定するための重要なリソースが、Retraction Watch Hijacked Journal Checkerです。このツールは、正当な学術誌を模倣している偽ジャーナルを特定し、研究者が誤ってこれらのジャーナルに論文を提出しないように支援します。このチェッカーは、ハイジャックされたジャーナルのリストを継続的に更新しています。このリストを活用することで、研究者はハイジャックジャーナルを回避し、信頼できるジャーナルに投稿するための判断材料を得ることができます。
登録時のチェックポイント
ジャーナルに論文を提出する際には、いくつかの重要なチェックポイントを確認することが必要です。ジャーナルのウェブサイトが信頼できるものであるか、編集委員会のメンバーや論文著者のORCID、過去の発行内容に不審な点がないかを確認します。
信頼できる出版社の選定
信頼できる出版社を選定することは、ハイジャックジャーナルの被害を防ぐとても重要な手段です。
研究者は、長い歴史を持ち、学術界で評価が高い出版社やジャーナルを選ぶことを心がけることでハイジャックジャーナへ投稿することを防ぐことができます。また、オープンアクセスジャーナルを利用する際には、その運営者の評判や査読の質が高いかどうかを事前に調査することが推奨されます。
ハゲタカジャーナルとは
ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)に関する議論において、ハゲタカジャーナルについても触れることが重要です。
これは、両者が共に学術出版において悪質な手法を用いている点で共通しているからです。ハイジャックジャーナルが既存の信頼できるジャーナルを模倣して研究者を騙す一方で、ハゲタカジャーナルは、査読プロセスを軽視し、質の低い論文を大量に公開することで利益を上げることを目的としています。
ハゲタカジャーナルは、学術的な倫理や研究の質よりも自己利益を優先する悪質なジャーナルです。これらのジャーナルは、著者から高額な掲載料を徴収し、査読プロセスが不十分、または全く行われない場合が多く、その結果、質の低い論文が氾濫します。これにより、学術界全体の信頼性が損なわれ、科学の発展が妨げられることになります。
ハイジャックジャーナルとハゲタカジャーナルは、その手法や目的に違いがあるものの、いずれも研究者や学術コミュニティに対して重大なリスクをもたらす点で共通しています。そのため、ハイジャックジャーナルについて理解を深める際には、ハゲタカジャーナルの存在も同時に認識することが必要です。これにより、研究者が悪質な出版行為に対してより一層の警戒を持ち、学問の健全な発展を守ることができるようになります。
ハゲタカジャーナルとは:ハゲタカジャーナルの調べ方・見分け方・投稿を避ける
ハゲタカジャーナルとは、低品質な研究を掲載し、研究者から不当な費用を徴収する悪質な学術雑誌です。学術界全体に多大な影響を与えるこの問題への対策が急務となっています。
ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナルの共通点
ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)の主な共通点は以下の通りです
ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナルの共通点
- 研究者からの搾取が主な目的:両者とも、研究者から金銭を搾取することを主な目的としています。
- 学術界への悪影響:どちらも研究者の意欲を削ぎ、科学の発展を妨げ、オープンアクセス出版への信頼を損なう結果をもたらします。
- 研究者のニーズを悪用:迅速な出版やスムーズな査読プロセスを約束することで、厳しい締め切りに追われている研究者を惑わせます。
- 査読プロセスの不備:両者とも、適切な査読プロセスが存在しないか、極めて不十分です。
- オープンアクセスモデルの悪用:オープンアクセス出版の仕組みを悪用して運営されています。
- 研究の質への悪影響:査読を受けていない質の低い論文が増える結果となり、学術文献の有効性と信頼性に深刻な影響を及ぼします。
- 積極的な営業活動:金銭詐取が目的なため著者に投稿勧誘メールなど積極的に活動を行います。
これらの共通点から、両者とも学術出版の健全性を脅かし、金銭を詐取する存在であり、研究者は細心の注意を払って投稿先を選ぶ必要があることがわかります。
ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)とハゲタカジャーナルの違い
ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)とハゲタカジャーナルの主な違いを以下の表にまとめました
特徴 | ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル) | ハゲタカジャーナル |
---|---|---|
定義 | 既存の正当なジャーナルを模倣して作成された偽ジャーナル | 学術論文の品質を犠牲にして利益を優先するだけの組織が運営するジャーナル |
模倣の程度 | 既存ジャーナルを忠実に模倣し、ほぼ見分けがつかない | 必ずしも特定のジャーナルを模倣しない |
主な目的 | 著者から論文掲載料(APC)を徴収し、姿を消すか偽サイトに論文を掲載 | できるだけ多くの論文を掲載し、著者からの論文掲載料(APC)で利益を得る |
査読プロセス | 通常は存在しないか、極めて不十分 | 存在するが、不十分または形式的 |
データベース登録 | 正規のデータベースに登録されることがある | 通常、信頼性の高いデータベースには登録されにくい |
標的 | 小規模出版社のジャーナルサイトや非英語ジャーナルサイトが多い | 特に若手研究者や経験の浅い研究者 |
発見の難しさ | ベテラン研究者でも見抜くことが困難 | 比較的見分けやすい(ただし注意が必要) |
この表は、ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)とハゲタカジャーナルの特徴と違いを整理しています。
ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)とハゲタカジャーナルは異なる特徴を持ちます。研究者はいずれしてもこのような問題を十分に理解し、論文投稿先を慎重に選択する必要があります。
まとめ
今後の課題と展望
ハイジャックジャーナルは、学術出版の信頼性を揺るがす深刻な問題であり、今後も続くと予想されます。研究者や学術コミュニティ全体が、この問題に対する意識を高め、適切な対策を講じることが、学問の健全な発展に不可欠です。
教育や啓発活動を通じて、研究者が正しい情報を持ち、自己防衛できるよう支援することが重要です。技術の進展に伴い、新たな課題が生じる可能性がありますが、引き続き慎重な対応が求められます。
参考
https://www.editage.jp/insights/what-you-need-to-know-about-hijacked-journals
https://retractionwatch.com/retraction-watch-hijacked-journal-checker/
https://www.editage.jp/insights/how-to-identify-predatory-and-hijacked-journals
Journal Checker https://retractionwatch.com/
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。