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ハゲタカジャーナルとは、表面的には学術雑誌のように見えるが、実際には低品質な研究を掲載し、研究者から不当な費用を徴収する悪質な出版物です。この問題は、研究者や学術界全体に多大な影響を与えており、その対策が急務となっています。
目次
- 1. ハゲタカジャーナルとは?
- 2. ハゲタカジャーナルの歴史と背景
- 3. 学術界におけるハゲタカジャーナルの広がり
- 4. ハゲタカジャーナルと正当な学術雑誌の違い
- 5. 研究者、学術界、研究成果への質への影響
- 6. ハゲタカジャーナルの調べ方
- 6.1. ジャーナルの評判や信頼性の確認
- 6.1.1. ハゲタカジャーナルではない雑誌の調べ方(ホワイトリスト)
- 6.1.2. ハゲタカジャーナルの調査方法(ブラックリスト)
- 7. ハゲタカジャーナルを見分けるポイント
- 8. ハゲタカジャーナル被害を防ぐための対策
- 8.1. ハゲタカジャーナルの被害を防ぐ対策
- 8.2. 追加の対策
- 9. ハゲタカジャーナルと学術情報発信の未来
- 10. 参考
ハゲタカジャーナルとは?
ハゲタカジャーナル(Predatory Journals)とは、学術的な体裁を取りながら、品質管理や査読プロセスを怠り、主に収益を目的としている「粗悪な学術雑誌」のことです。これらのジャーナルは、研究者から高額な投稿料(APC)を徴収するのが目的であり、悪意ある営利目的の学術出版です。論文の質や信頼性を無視して公開するため、研究の信頼性と学術界全体の評判を損なう存在となっています。
ハゲタカジャーナルは、英語では「Predatory Journals」と言われておりますが、日本では「ハゲタカジャーナル」といわれることが一般的です。
この「Predatory」という言葉の日本語訳は「(生物を捕らえて)捕食する、捕食性の、略奪する、略奪を目的とする、自分の利益のために他人を食いものにする」という意味を持っています。
日本語のハゲタカジャーナルは、鳥の「ハゲタカ」を直訳した「Vulture Journals」ではなく、高額な投稿料を徴収する(捕食する)行為に着目して「Predatory Journals」と呼ばれるようになりました。この名称は、これらのジャーナルがどのようにして研究者を食い物にしているかを示しています。
ハゲタカジャーナルの歴史と背景
ハゲタカジャーナルの概念は2000年代初頭に登場しました。その背景には、学術出版のデジタル化とオープンアクセスモデルの拡大があります。オープンアクセスモデルは、研究成果を広く共有するための素晴らしい手段ですが、その仕組みを悪用する者も現れました。これにより、ハゲタカジャーナルが増加し、研究者からの投稿料で収益を上げるビジネスモデルが確立されました。
オープンアクセスとは? 学術出版の変革とその影響についてを解説 | 学術情報発信ラボ
オープンアクセス(OA)は、学術研究の成果を無料で自由にアクセス可能にする出版モデル。グリーン、ゴールド、ダイアモンドOAなど種類があり、知識の普及と研究の質向上に貢献します。
学術界におけるハゲタカジャーナルの広がり
ハゲタカジャーナルは、特に発展途上国の研究者や新進の研究者を狙うことが多いです。
理由として狙われやすい新進の研究者は学術的なキャリアを築くために論文発表を急ぐことが多く、その焦りにつけ込まれる形でハゲタカジャーナルに投稿してしまうことがあります。また、そもそも、発展途上国内でハゲタカジャーナルという言葉自体が認知されておらず、投稿してしまうこともあります。
いずれにしても、ハゲタカジャーナルに投稿することは、学術界全体において低品質な研究が増加し、研究の信頼性が揺らぐ事態へとつながります。
ハゲタカジャーナルと正当な学術雑誌の違い
正当な学術雑誌とハゲタカジャーナルの最大の違いは、査読プロセスと編集の質にあります。
正当な学術雑誌は、厳格な査読プロセスを経て論文を公開し、研究の質と信頼性を確保しています。一方、ハゲタカジャーナルは、このプロセスを省略するか形だけのものとし、迅速に論文を公開します。また、編集委員会の質も低く、時には架空の名前が使われることさえあります。
研究者、学術界、研究成果への質への影響
ハゲタカジャーナルの存在は、個々の研究者だけでなく、学術界全体に多大な影響を与えます。
研究者は、信頼性のないジャーナルに投稿したことで学術的な評価が下がり、キャリアに悪影響を及ぼします。また、低品質な研究が公開されることで、学術的な知見の信頼性が低下し、社会全体の学術研究に対する信頼も揺らぐこととなります。
ハゲタカジャーナルの調べ方
ハゲタカジャーナルを見分けるための効果的な方法を解説します。
ジャーナルの評判や信頼性の確認
ハゲタカジャーナルではない雑誌の調べ方(ホワイトリスト)
最初に行うべきステップは、ハゲタカジャーナルでない評判と信頼性が高いジャーナルを調べることです。信頼できるジャーナルは、査読プロセスを実施しており、専門家から評価されています。このため、ジャーナルが信頼性の高いデータベースに収録されているかを確認することが重要です。
具体的にはDOAJ(Directory of Open Access Journals)やScopus、Web of Science、国内ではJ-STAGEなどのデータベースに収録されているか確認します。
これらのデータベースは、信頼できるジャーナルを掲載しているため、まずはここにジャーナルが登録されているかを確認しましょう。
特に、DOAJはオープンアクセスジャーナルの信頼性をチェックするための主要なリソースであり、ScopusやWeb of Scienceも幅広い分野で認められたジャーナルを網羅しています。また国内ではJ-STAGEに掲載されていればハゲタカジャーナルではございません。
ハゲタカジャーナルの調査方法(ブラックリスト)
Beall's List(ビールのリスト)は、過去に問題が指摘されたハゲタカジャーナルをまとめたリストです。
このリストを確認することで、過去に悪評のあるジャーナルを避けることができます。しかし、ビールのリストはすでに更新が停止されているため、最新の情報が欠けている点には注意が必要です。それでも、信頼性を疑う際の参考資料として役立ちます。
ハゲタカジャーナルを見分けるポイント
ハゲタカジャーナル、もしくハゲタカジャーナルを出版する出版社は、次のような特徴を1つ以上該当する場合が大半で注意が必要です。
ハゲタカジャーナルの見分け方:
- 他のジャーナルと混同されやすいジャーナルの名称、またはジャーナルの起源、他のジャーナルとの関連について著者や読者に誤解を与える可能性のあるジャーナルタイトル
- 非常に広い分野(広い分野をカバーしている)
- 非公式のインパクトファクターの表示
- PubMed や DOAJ などの主要なサービスでインデックスに登録されているという虚偽の主張
- 出版社の住所や連絡先情報が存在しない
- ジャーナルの所有権が不明
- スパム研究者に、多くの場合、専門知識とは無関係の投稿を招待する多数の電子メールを送信
- 投稿から公開までの時間が非常に短い(ハゲタカジャーナルは素早く公開してAPCを徴収するため公開までが早い)
- 分野の範囲外の記事も公開します
- 記事の編集が不十分または存在しない(スペルミスが多い、または文法が非常に不十分)
- 料金に関する情報を非表示にしていることがある
- 編集委員会がリストされていないか、編集委員会が死亡または退職した学者、またはトピックに特化していない学者で構成されています
- ジャーナルのポリシー(査読、ライセンス、著作権など)に関する情報が不足している
- 編集委員会のメンバーを確認し、実在する研究者で構成されているかどうかを確認
オープンアクセスは、本来、研究成果を広く共有し、アクセスを容易にするための仕組みです。しかし、このオープンアクセスモデルが悪用され、ハゲタカジャーナルが増加する原因となっています。
オープンアクセスの利点を享受しつつ、ハゲタカジャーナルを避けるためには、上記のポイントを踏まえた慎重なジャーナル選択が求められます。
ハゲタカジャーナル被害を防ぐための対策
投稿者(著者)だけでなく個々の研究者(購読者、査読者等)も、ハゲタカジャーナルから身を守るための対策を講じることが重要です。以下のような対策が有効です。
ハゲタカジャーナルの被害を防ぐ対策
ハゲタカジャーナル被害を防ぐための個人の対策
- 複数の情報源からジャーナルの信頼性を確認する
信頼性のある学術誌を選ぶためには、複数の情報源から情報を集め、評価することが重要です。例えば、ジャーナルのインパクトファクターや編集委員会のメンバーを確認し、過去の論文の質をチェックすることが重要です。
- 研究機関や指導教官に相談し、信頼性のあるジャーナルを選ぶ
研究機関や指導教官は、信頼性のあるジャーナルを選ぶ上で重要なアドバイスを提供してくれます。特に、経験豊富な研究者の意見を参考にすることで、ハゲタカジャーナルを避けることができます。
- ジャーナルに投稿する前に、慎重に査読プロセスや編集方針を確認する
ジャーナルの査読プロセスや編集方針を確認することは重要です。信頼できるジャーナルは、厳格な査読プロセスを持ち、透明性の高い編集方針を公表しています。
- 突然知らないジャーナルの査読を依頼された場合でも信頼性を確認する
自信が査読者の場合でも、上記の方法でそのジャーナルの信頼性を確認することが必要です。これにより、誤ってハゲタカジャーナルに関与するリスクを減らすことができます。
追加の対策
例えば、Think. Check. Submit.のようなサイトを活用してジャーナルの信頼性をチェックすることも非常に重要です。
このサイトでは、信頼できるジャーナルを選ぶためのチェックリストを提供しており、研究者が安心して投稿できるジャーナルを見つける手助けをしています。
このようなことを留意せず誤って著名な研究者が投稿してしまった事例などもあるため、ハゲタカジャーナルの特徴や注意すべきポイントを明確にして事前に確認することがとても重要です。
研究者一人ひとりが注意を払い、信頼性のあるジャーナルを選ぶことで、学術界全体の信頼性を守ることができます。
ハゲタカジャーナルと学術情報発信の未来
ハゲタカジャーナルの問題を解決するためには、学術界全体での取り組みが欠かせません。
信頼性のある学術情報を広く発信し、研究者が正しい情報にアクセスできるようにする取り組みが重要となります。また、新しい技術や仕組みを活用して、査読プロセスの透明性を高め、研究の質を向上させることが求められています。
今後も研究者一人ひとりが注意を払い、信頼性のあるジャーナルを選ぶことが重要です。また、学術界全体での取り組みが求められ、政府や学術機関の協力が不可欠です。正しい情報を広く共有し、学術研究の信頼性を守るために、今後も継続的な努力が必要です。
参考
- Think. Check. Submit. (n.d.). Retrieved from https://thinkchecksubmit.org/
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。