即時オープンアクセスの実現は、学術情報の迅速かつ広範な共有を可能にする重要なステップです。この記事では、即時オープンアクセスの概要、必要性、現状と課題、基本方針、研究者や学術機関の役割、学術雑誌と出版社の対応策、利用者の視点、政策と規制の現状と将来展望、そしてグローバルな動向について詳しく解説します。

即時オープンアクセスの概要

即時オープンアクセス(Immediate Open Access)とは、学術論文や研究成果が発表と同時に自由にアクセスできるようにする仕組みです。

このモデルは、研究の透明性を高め、知識の迅速な拡散を可能にし、研究コミュニティ全体の発展に寄与します。従来の学術出版モデルでは、論文が出版されるまでに一定の期間が必要でしたが、即時オープンアクセスではその遅延が解消されます。

即時オープンアクセスの必要性

即時オープンアクセスが求められる理由はいくつかあります。

まず、研究の進展を加速させるためには、最新の研究成果に迅速にアクセスできることが重要です。

また、公共の資金で行われた研究成果がすぐに一般に公開されることで、研究の透明性と信頼性が向上します。

さらに、教育機関や研究者にとっても、最新の情報を活用することでより質の高い教育と研究が可能となります。

このような理由から即時オープンアクセスは、学術コミュニティ全体にとって大きなメリットをもたらします。

学術出版における現状と課題

学術出版の現状は、多くの課題を抱えています。例えば、高額な購読料が課題となっており、多くの研究機関や個人研究者がアクセスできる論文に制限がありました。

また、論文の審査や出版に時間がかかるため、研究成果の共有が遅れることも問題です。これにより、研究の進展が阻害されることがあります。さらに、オープンアクセスの普及が進む中で、学術出版社による掲載料(APC: Article Processing Charge)の高騰が問題視されています。

広島サミットでの議論

このようななかで2023年に広島で開催されたサミットでは、即時オープンアクセスに関する重要な議論が行われました。このサミットには、多くの国々から研究者、政策立案者、出版社が参加し、オープンアクセスの推進に向けた具体的な戦略が話し合われました。

特に、公共の資金で行われた研究成果を即時にオープンアクセスで公開することの重要性が強調されました。

さらに、各国の政策や規制の整合性を保ちつつ、国際的な協力を強化する必要性が議論されました。

学術論文等の即時オープンアクセス実現に向けた基本方針とは

この議論を受けて、日本政府は「学術論文等の即時オープンアクセス実現に向けた基本方針」を制定しました。この方針は、学術論文および根拠データの即時オープンアクセスを実現するための理念として、以下の3つの要素を盛り込んでいます。

即時オープンアクセス実現に向けた基本方針の理念

  1. 公的資金によって生み出された研究成果の国民への還元:
    • 研究成果を広く国民に還元し、その共有・公開を通じて自由な利活用を図ること。これにより、科学技術、イノベーションの創出および地球規模課題の解決に貢献することを目指します。
  2. 大学等における経済的負担の適正化:
    • 大学および大学共同利用機関(大学等)における利用可能な雑誌数や論文発表数を減らすことなく、研究活動に負の影響を与えずに購読料およびオープンアクセス掲載公開料(APC)の経済的負担を適正化することを目指します。
  3. 研究成果の発信力向上:
    • 日本の研究力を踏まえ、世界に対する研究成果の発信力を向上させることを目指します。

この「学術論文等の即時オープンアクセス実現に向けた基本方針」は、この理念を尊重し、具体的に以下を定めています。

公的資金による即時オープンアクセスの実施

公的資金のうち、2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費を受給する者(法人を含む)に対して、該当する競争的研究費による学術論文および根拠データを学術雑誌に掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤へ掲載を義務付けます。

※2025年に新たに公募を行う競争的研究費となります。2024年以前に採択された研究費は対象になりません。

即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費制度は、学術論文を主たる成果とするもので、関係府省が定めます。具体的には、査読付き学術論文(電子ジャーナルに掲載された査読済みの研究論文および著者最終稿を含む)と、掲載電子ジャーナルの執筆要領や出版規程に基づき、透明性や再現性確保の観点から必要とされる根拠データ(公表が求められる研究データ)を対象とします。

即時オープンアクセスの即時とは

即時とは「学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載(電子版としての掲載後)公開禁止期間(エンバーゴ)がないことを言う。

グローバルな学術出版社等(学術プラットフォーマー)との交渉

学術プラットフォーマーとは、学術論文や研究データの流通を支配するグローバルな学術出版社やデータベース提供者のことです。

これらのプラットフォーマーは、学術情報の提供において中心的な役割を担い、研究者が発表した論文の審査・出版・配信を行います。しかし、高額な購読料やAPCの設定により、研究機関や研究者の経済的負担が増大しているという課題があります。

こうした背景から、大学などの集団交渉の体制構築を支援し、学術論文の自由な利活用を促進することが求められています。具体的には、購読料やAPCの適正化を目指し、研究者や大学がより利用しやすい環境を整えることが重要です。

学術論文及び根拠データの機関リポジトリ等の情報基盤への掲載

学術論文および根拠データを機関リポジトリに掲載することで、誰もが自由に利用可能となることを目指します。

機関リポジトリは、研究データの管理・利活用のための中核的なプラットフォームと位置付けられています。具体的には、第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)において「研究データの管理・利活用のための我が国の中核的なプラットフォーム」として位置付けられた研究データ基盤システム(NII Research Data Cloud)上で、学術論文および根拠データが検索可能となることが求められています。

研究成果発信のためのプラットフォーム整備

研究成果を自由に利用できるようにするため、研究データ基盤システムやプレプリント、その他の学術論文等の研究成果を管理・利活用するためのプラットフォームの整備・充実を支援します。

これにより、研究者は自身の成果を広く公開し、他の研究者や一般市民と共有することができます。研究データ基盤システム(NII Research Data Cloud)は、学術論文や根拠データの検索・利用を容易にするための重要なツールであり、これを通じて研究成果の透明性と再現性が向上します。

さらに、研究データ基盤システムだけでなく、プレプリントサーバーの活用も奨励されます。

プレプリントは、査読前の研究成果を迅速に公開する手段であり、研究コミュニティ内での迅速なフィードバックや議論を可能にします。また、学術論文等の研究成果を管理・利活用をするためのプラットフォームの整備・充実に対する支援を行い、研究者が成果をオープンアクセス形式で発表する選択肢が広がります。

国際連携の重要性

FAIR原則(Findable(見つけられる), Accessible(アクセスできる), Interoperable(相互運用できる), Reusable(再利用できる))に基づき、学術論文および根拠データの即時オープンアクセスを推進するため、国際連携を強化します。

特に、G7などの価値観を共有する国々との協力を深めます。国際的な協力を通じて、オープンアクセスの標準化と普及を図り、グローバルな研究コミュニティの一体化を促進します。

FAIR原則を徹底解説:見つけられる・アクセスできる・相互運用できる・再利用できるとは

FAIR原則は、データの発見性、アクセス性、相互運用性、再利用性を高める国際的ガイドラインで、オープンデータ公開の標準として広まっています。

実施体制その他の事項

資金配分機関、大学等及びその他即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費を受給する者の所属する機関が即時オープンアクセスの実施状況を把握するためのシステム間の連携について、関係府省間で検討を行います。

オープンアクセスは研究成果の発信力の向上等のために行うものであることを認識し、既存の研究費や採択件数を圧迫しないよう留意して施策を進める必要があります。

本方針を踏まえた学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向け連携して取り組むとともに、関係府省間の検討の場を設け、関係施策実施にあたっての具体的方策を定めます。国内外のオープンアクセスに関する政策動向、市場動向等を踏まえ、必要に応じて本方針を見直すことが求められます。

利用者の視点から見た即時オープンアクセス

このような即時オープンアクセスが行われることで利用者、特に研究者や学生にとって、大きな利点をもたらします。

最新の研究成果にすぐにアクセスできることで、研究や学習が効率化され、質の高い成果が期待できます。

また、一般市民も自由に学術情報を利用できるため、知識の普及と啓蒙が進みます。さらに、オープンアクセスは、研究の透明性を高め、科学的な信頼性を向上させる効果があります。これにより、科学コミュニティ全体が利益を享受でき、社会全体の知識の向上に寄与します。

まとめ

即時オープンアクセスの実現は、学術情報の共有と研究の進展において極めて重要です。

研究者、学術機関、出版社、政策立案者、そして利用者のすべてが協力し、この目標を達成するための具体的な方針とアプローチを実行することが求められます。日本政府も積極的に取り組みを進めており、2025年度からの即時オープンアクセス実現を目指して具体的な方策を講じています。

著作権の取り扱いやデータ管理の標準化、資金調達の枠組みなど、様々な施策が提案されており、アカデミアと連携しながら実効性の高い政策の実現が期待されます(内閣府, 2024)。

参考文献

内閣府. (2024). 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた国の方針に関する説明会の開催について. Retrieved from https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20240415.html

内閣府. (2024). 学術論文等のオープンアクセス化に向けた基本方針. Retrieved from https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_240216.pdf

内閣府. (2024). オープンサイエンス推進のための施策. Retrieved from https://www8.cao.go.jp/cstp/openscience/r6_0221/hosaku.pdf

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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