学術出版において誤りが発見された場合、適切な訂正が求められます。日本語では「正誤表」として包括的に対応しますが、英語では「Erratum」「Corrigendum」「Correction」と原因別に用語を使い分けます。この記事では、それぞれの定義や作成方法、発行プロセスについて解説し、論文の信頼性と透明性を保つための実践ガイドを提供します。

目次

「正誤表」と「Erratum」「Corrigendum」「Correction」とは?

学術出版において、論文や出版物に誤りが発見された場合、訂正を行うことは非常に重要です。誤りを訂正することで、研究成果の信頼性と透明性を維持し、学術コミュニティ全体の質を保つことができます。

日本語では、誤りの原因が出版社であっても著者であっても「正誤表」という用語が一般的に使われます。一方、英語では、誤りの原因に応じて「Erratum」「Corrigendum」といった特定の用語が使い分けられ、これらを総称して「Correction」と呼ぶこともあります。

日本語における「正誤表」の概要

日本語で「正誤表」が使われる範囲

日本語では、論文や出版物に誤りが見つかった場合、一般的に「正誤表」という言葉が使われます。正誤表は、出版社・編集者によるミスだけでなく、著者によるミスの両方を訂正するために使用することが多いです。

正誤表が必要な誤りの例

  • 出版社・編集者のミス
    • 印刷ミス
    • ページ番号の誤り
    • 図表やキャプションの誤配置
  • 著者のミス
    • データ数値の誤り
    • 誤った引用や参考文献
    • 誤解を招く用語や略語の使用

日本語では、誤りがあった場合、包括的に「正誤表」として訂正を行うことが多いため、手続きもシンプルである場合が一般的です。

英語における「Erratum」「Corrigendum」「Correction」の定義と使い方

エラータ(Erratum)とは?

「Erratum」は、出版社や編集者のミスによる誤りを訂正するために発行されます。誤りが出版プロセス、校正段階、印刷工程で発生した場合に該当します。

エラータが必要な誤りの例
  • ページ番号や章番号の誤り
  • 図やキャプションの誤配置
  • 印刷ミスや誤字脱字

「Erratum」の発行プロセス

エラータの発行プロセス

誤りの確認

出版社や編集者が誤りを特定し、訂正の必要性を判断します。

STEP
1

著者への通知

訂正内容を著者に通知し、内容の確認を取ります。

STEP
2

訂正文の作成

「Erratum」というタイトルで訂正文を作成します。

STEP
3

訂正の公開

訂正文をジャーナルや出版社のWebサイトに掲載し、読者に通知します。

STEP
4

Corrigendumとは?

「Corrigendum(コリゲンダム)は、著者のミスによる誤りを訂正するために使用されます。原稿提出時に著者が誤った情報を記載し、出版後にそれが判明した場合に該当します。

正誤表が必要な誤りの例
  • データや数値の誤り
  • 誤った引用や参考文献
  • 誤解を招く用語の使用

「Corrigendum」の発行プロセス

エラータの発行プロセス

誤りの認識と申請

著者が誤りを認識し、出版社に訂正の申請を行います。

STEP
1

内容確認

出版社と著者が共同で訂正文の内容を確認します。

STEP
2

訂正文の作成

「Corrigendum」というタイトルで訂正文を作成します。

STEP
3

訂正の公開

訂正文をジャーナルに掲載し、読者に通知します。

STEP
4

Correctionという包括的な用語

「Correction」は、エラータ(Erratum)と正誤表(Corrigendum)を包括的に示す用語です。特に以下のようなケースで用いられます。

Correctionが必要な誤りの例
  • 誤りの原因が出版社と著者の双方に関連している場合
  • 誤りの原因が特定できない場合

Correction」の発行プロセス

Correctionの発行プロセス

誤りの特定

原因が曖昧な場合、Correctionとして対応することがあります

STEP
1

内容確認

出版社と著者が共同で訂正文の内容を作成します。

STEP
2

訂正の公開

「Correction」というタイトルで訂正文を公開し、読者に周知します。

STEP
3

日本語と英語の訂正用語の比較

日本語と英語における訂正用語の違い

項目日本語英語
原因原因を問わず「正誤表」出版社のミス → Erratum
著者のミス → Corrigendum
発行者出版社または著者出版社
通知義務特に規定なし著者への通知が推奨(Erratum)
内容確認出版社・著者が確認出版社が確認(Erratum)
著者と出版社が確認(Corrigendum)

上記の比較表は、学術出版における一般的な例です。具体的な対応方法や用語の使い方は、各出版社や学会誌によって異なる場合があります。訂正が必要になった際には、以下のポイントを考慮し、対応方法を確認することが重要です。

出版社やジャーナルの投稿規定の確認

  • 投稿ガイドライン
    多くの学会誌や出版社は、訂正(Correction)撤回(Retraction)に関する明確なガイドラインを設けていることがございます
  • 用語の使い方
    「Erratum」と「Corrigendum」の厳密な使い分けを行わず、包括的に和文誌では「正誤表」や「Correction」と表記するジャーナルも存在します。

確認すべきポイント

訂正申請の手続き:申請書の書き方、必要な書類

訂正の種類:Erratum、Corrigendum、Correctionの使い分け

訂正文の作成方法:構成要素、書式

訂正文はシンプルかつ分かりやすく!誤りと正しい内容を明確に記載することが重要です

訂正文の作成方法

訂正文の基本構成

訂正文には、以下の要素を含めることが推奨されます。

訂正文の作り方:

  1. タイトル
    • 正誤表の場合:「正誤表:論文タイトル」
    • Erratumの場合:「Erratum: 論文タイトル」
    • Corrigendumの場合:「Corrigendum: 論文タイトル」
    • Correctionの場合:「Correction: 論文タイトル」
  2. 修正箇所の明示
    • 誤りがあったページや段落を具体的に記載します。表があった場合などは該当箇所のみ正誤を並べて掲載するなどでわかりやすく掲載することが重要です。
  3. 修正内容の詳細
    • 誤った内容正しい内容を示します。

「正誤表」と「Erratum」「Corrigendum」「Correction」よくある質問と解決策

学術出版における訂正対応では、執筆者や編集者が直面する疑問や問題が多岐にわたります。

ここでは、よくある質問とその解決策について詳しく解説します。

Q:軽微な誤記も訂正するべきですか?

A: 読者に混乱を与える可能性がある場合は訂正を行いましょう。データや引用、図表に関する誤りは、軽微でも正確に訂正するべきです。ただし、句読点や細かなスペルミスは、研究の内容に影響しないと判断される場合、訂正不要とされることがあります。また、J-STAGEで記事を掲載している場合は内容にかかわらない簡易的な修正は簡単に可能です。

Q:訂正の際に著者の謝罪は必要ですか?

A: COPE(Committee on Publication Ethics)のガイドラインによると、訂正において著者の謝罪は必須ではありません。重要なのは、誤りを認め、正確な情報を提供し、訂正を透明に行うことです。

Q:訂正に費用はかかりますか?

A: 出版社によって異なりますが、出版社側のミス(Erratum)の場合、通常は費用がかかりません。著者のミス(Corrigendum)の場合は、費用が発生することもありますので、事前に出版社のポリシーを確認しましょう。

Q:訂正が必要な誤りをどう判断すればよいですか?

A: 誤りの影響度によって判断します。以下の基準を参考にしましょう:

  1. 読者の理解に影響を与えるか?
  2. 研究の信頼性や再現性に影響するか?
  3. データや結論に誤解を招く可能性があるか?
    これらに該当する場合は、速やかに訂正が必要です。

Q:訂正が必要と判断したら、どのように対応すればよいですか?

A: 訂正が必要と判断したら、以下の手順に従いましょう:

  1. 誤りの特定:誤りの内容と箇所を明確にします。
  2. 報告:出版社の編集部に速やかに連絡し、訂正申請を行います。
  3. 内容確認:訂正文を作成し、著者と編集者が内容を確認します。
  4. 公開:訂正文をジャーナルやWebサイトで公開し、読者に通知します。

Q:訂正を行うことで論文の信頼性が低下しませんか?

A: 訂正を適切に行うことで、むしろ論文や著者、出版社の信頼性が向上します。

 逆に誤りを隠すことは、学術倫理に反し、研究者としての信頼を損ないます。訂正を通じて透明性を示すことで、研究への誠実さが評価されます。

Q:訂正文に著者全員の同意が必要ですか?

A: 可能であれば著者全員の同意を得ることが望ましいですが、全員の同意が必須ではない場合もあります。責任著者(Corresponding Author)と編集者が合意すれば、訂正文を発行できることが一般的です。各出版社の方針を確認しましょう。

Q:訂正文を発行する際、読者にどのように通知すればよいですか?

A: 以下の方法で読者に通知すると効果的です:

  1. ジャーナルのWebサイト:該当論文のページに訂正文へのリンクを追加します。
  2. DOIの更新:訂正文に固有のDOIを付与し、検索や参照を容易にします。
  3. ニュースレターやSNS:ジャーナルのニュースレターやSNSで訂正情報を発信します。

Q:訂正ではなく、論文を撤回(リトラクション)するべきケースは?

A: 以下の場合は、訂正ではなく論文の撤回が適切です:

  1. データの捏造や改ざんが発覚した場合
  2. 結論に重大な誤りがあり、論文全体が無効となる場合
  3. 倫理違反が認められた場合

撤回が必要かどうかの判断は、編集者や出版社、場合によっては第三者の倫理委員会と相談しましょう。また、J-STAGEなどに掲載している記事を撤回する場合などは、すでにDOIを掲載している記事の撤回となるため、J-STAGEに撤回方法を確認する必要があります。

Q:訂正文には具体的にどのような形式や構成が適切ですか?

A: 以下の形式が推奨されます:

  1. タイトル:「Erratum」「Corrigendum」「Correction」など。
  2. 原論文の引用情報:論文タイトル、著者名、出版年、巻号、ページ番号。
  3. 修正内容:誤った箇所の詳細と修正内容を明示。
  4. 訂正理由:簡潔に誤りの原因を説明(例:「著者のデータ入力ミスによる」)。

正誤表の具体的な書き方は? 正誤表のサンプルを示します

Q:正誤表(訂正内容)は具体的にどのように書くのが適当でしょうか?

A: 一般的な正誤表のサンプルを下記に示します。

正誤表の書き方:正誤表 例

正誤表 (Erratum)サンプル


論文タイトル: 「次世代AIアルゴリズムの性能比較に関する研究」
著者: 山田 太郎、佐藤 花子、鈴木 健一
巻号: 第15巻第3号、2024年3月号、pp. 123-135
DOI: 10.1234/sample2024.00123s

お詫びと訂正
『人工知能研究ジャーナル』第15巻第3号に掲載された論文「次世代AIアルゴリズムの性能比較に関する研究」において、以下の誤りがございました。

訂正内容

  1. 誤記載箇所
    該当箇所:p. 126、図2のキャプション

  誤:「図2:SVMおよびCNNの精度比較グラフ(テストデータセットA)」
  正:「図2:SVMおよびRNNの精度比較グラフ(テストデータセットA)」

  1. 誤データの訂正
    該当箇所:p. 129、第2段落、第3行目

  誤:「CNNモデルは90.5%の精度を達成した。」 
  正:「RNNモデルは90.5%の精度を達成した。」

  ※表中の修正などの場合は、該当部分を抜粋して掲載し、表内のどの部分が間違えたかなどわかりやすく掲載する

  1. 誤引用の訂正
    該当箇所:p. 130、参考文献[7]

  誤:「Smith, J. (2020). Deep Learning Techniques. AI Journal, 12(4), 45-60.」
  正:「Brown, A. (2020). Recurrent Neural Networks in Practice. AI Journal, 12(4), 45-60.」


訂正理由(掲載しない場合もあります)
これらの誤りは、編集段階の確認不足および図表のラベル付けのミスによるものです。今後、このようなミスを防ぐため、編集および校正プロセスを一層厳格に運用いたします。

Q:デジタル出版における訂正はどのように行われますか?

A: デジタル出版の場合、訂正がリアルタイムで反映されやすい利点があります。以下の方法が一般的です:

  1. オンライン版の修正:誤りが見つかった箇所を修正し、履歴として訂正情報を残します。

    J-STAGEの場合では、相互リンクの設定をおこないます。元の記事とエラータ記事を相互にリンクし、読者が容易に訂正情報にアクセスできるようにします。
  2. バージョン管理:修正前後のバージョンを公開し、修正した箇所を透明性を確保します。

    CrossrefのCrossmark(クロスマーク)のサービスを出版会社で採用している場合などはバージョン管理が容易にできるように管理されております。
Crossmarkとは?学術出版におけるバージョン管理の必要性

Crossmarkは、学術論文のバージョン管理を行うためのツールであり、最新の情報を提供し続けることで信頼性と透明性を高めます。学術出版においてCrossmarkの活用は、読者と著者の双方に多くのメリットをもたらし、バージョン管理の重要性がますます認識されています。

Q:著者が訂正を拒否した場合、どう対応すればよいですか?

A: 著者が訂正を拒否した場合、以下の手順を検討しましょう:

  1. 編集者判断:編集部が訂正の必要性を再確認し、判断を下します。
  2. 第三者の介入:倫理委員会や専門家に意見を求めます。
  3. 出版社側の訂正:著者の同意が得られなくても、出版社として訂正を発行することができます。

まとめ

日本語では、「正誤表」という言葉が広く使われ、誤りの原因を問わず訂正が行われます。一方、英語では「Erratum」「Corrigendum」が原因によって使い分けられ、包括的な「Correction」という表現もあります。

適切な訂正を行うことで、学術出版における透明性と信頼性を維持し、研究者や読者の信頼を守ることができます。

参考

Committee on Publication Ethics. (n.d.). Corrigendum or erratum? Retrieved from https://publicationethics.org/case/corrigendum-or-erratum

この記事を書いた人

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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