OpenCitationsは、オープンサイエンスの推進に不可欠な基盤として、学術文献の引用データを完全にオープンアクセスで提供しています。これにより、研究者が引用情報を簡単に利用し、透明性と再現性の高い研究活動が可能となります。また、データはCC0ライセンスのもとで自由に再利用ができ、新たな学術的知見の創出や効率的な研究促進をサポートしています。本記事ではOpenCitationsと他の引用データサービスとの比較を通じ、その重要性を解説します。

OpenCitationsの概要とその意義

OpenCitationsの基本概念とその背景

OpenCitations(オープンサイテーション)は、2010年に設立された、学術文献の引用データをオープンアクセスで提供することを目的としたプロジェクトです。

従来、引用データは主に商業的なデータベースに依存しており、学術研究者や機関はその利用にあたり高額な費用を支払う必要がありました。

この状況は、研究成果を広く共有し、オープンに利用可能とする「オープンサイエンス」の理念と矛盾するものです。OpenCitationsは、このような制約を取り払い、誰もが自由に引用データを閲覧・利用できるインフラを提供することで、知識の公共性を高め、学術界の透明性と信頼性を向上させることを目指しています。

OpenCitations運営母体

OpenCitationsは、ボローニャ大学の「Research Centre for Open Scholarly Metadata(オープン学術メタデータ研究センター)」と連携して運営されています。

これは、OpenCitationsの財務管理や運営支援を提供するための協力体制で、学術データの信頼性と透明性を確保するための重要な基盤となっています。また、OpenCitationsは独立した非営利インフラ組織として活動しており、オープンアクセスの促進を目的とする国際的なイニシアチブ「Initiative for Open Citations(I4OC)」の主要な設立団体の一つでもあります。

Open Scienceの推進におけるOpenCitationsの役割

OpenCitationsは、オープンサイエンスの実現において重要な基盤のひとつとされています。

オープンサイエンスが重視する研究成果の「透明性」と「再現性」を確保するためには、引用データが誰にでもオープンであることが不可欠です。引用データをオープンにすることで、研究者は互いに協力しやすくなり、知識の再利用が促進されます。

これにより、科学の進展や新たな発見の創出に繋がり、学術コミュニティ全体の発展に貢献します。さらに、OpenCitationsが提供するデータは、再利用しやすい形式で公開されており、あらゆる研究者が自由にアクセス・活用することが可能です。

このことは、既存のデータをもとにした新しい学術的知見の創出や、効率的な研究活動の促進に役立っています。

誰もが利用できるオープンな引用データが、学術の未来を加速させます。

OpenCitationsと他のプロジェクトとの比較

以下に、OpenCitations、Google Scholar、Microsoft Academic、OpenAlex、Crossref Event Dataの5つの引用データのサービスについて、オープンサイテーションの観点から比較表を作成しました。

プロジェクト名主な特徴データのオープン性ライセンス再利用の柔軟性現状
OpenCitations学術文献の引用データを提供し、完全にオープンアクセス完全オープンCC0(パブリックドメイン)自由に利用・再配布可能活動中
Google Scholar学術文献の検索・引用数情報を提供するが、データの取得や再利用には制限がある部分的オープン独自ライセンス再利用に制限があり、商用利用不可活動中
Microsoft Academic学術文献の検索と引用情報を提供部分的オープン独自ライセンス再利用に制限があり、商用利用不可2021年終了、OpenAlexに移行
OpenAlex書誌データや引用データを無料で提供し、APIやデータダンプでアクセス可能完全オープンCC0(パブリックドメイン)自由に利用・再配布可能、学術外利用も可能活動中、Microsoft Academicの後継
Crossref Event Data学術出版物に関連するイベントデータ(ソーシャルメディアでの言及なども含む)を提供完全オープンCC0(パブリックドメイン)自由に利用・再配布可能活動中
サイテーションデータの利用

OpenCitationsとOpenAlexは、CC0ライセンスでデータを提供し、完全なオープンアクセスを実現しています。これにより、誰でも無料で自由に再利用・再配布が可能です。

Google Scholarは、独自のライセンスを使用しており、データの完全な再利用や商用利用には制約があります。Microsoft Academicは2021年に終了し、そのデータと機能の多くはOpenAlexに引き継がれました。OpenAlexは、Microsoft Academicの後継として、より開放的なライセンス(CC0)でデータを提供しています。

Crossref Event Dataは、学術出版物に関連するイベントデータを提供する比較的新しいサービスで、CC0ライセンスを採用しており、OpenCitationsやOpenAlexと同様に、データの自由な利用と再配布が可能です。OpenAlexがMicrosoft Academicの後継となり、Crossref Event Dataが新たなオープンデータソースとして加わったことで、学術情報のオープン化がさらに進展していることがわかります。

Crossref Event Dataの活用:研究の影響力を可視化

Crossref Event Dataは、学術論文の影響力をリアルタイムで可視化するツールです。ブログやニュース、リポジトリなど多様なデータソースから研究の言及を追跡し、研究者がその社会的インパクトを評価できます。APIを利用してデータを簡単に統合・分析でき、学術界外での影響力も把握可能です。

OpenCitationsの主要サービスと技術基盤

OpenCitations Corpus(OCC)の概要と機能

OpenCitations Corpus(OCC)とは、学術文献の引用データを集積し、オープンアクセスで提供するデータベースです。このデータはRDF形式で構築されており、SPARQLエンドポイントやREST APIを介してアクセスできます。

これにより、研究者は引用データを簡単にクエリし、ネットワーク解析や可視化を行うことができます。OCCは年々更新され、最新の引用情報が提供されているため、信頼性の高いリソースとして活用されています。

COCI(OpenCitations Index of Crossref Open DOI-to-DOI Citations)の特徴

COCIは、CrossrefのオープンなDOI間の引用データをインデックス化したデータセットで、膨大な引用情報を含んでいます。

このデータセットは、学術文献間の関係性を詳細に解析するための貴重なリソースであり、引用元と被引用文献のメタデータが独立したデータオブジェクトとして提供されています。COCIは、引用情報の可視化や引用分析に必要な基本データを提供し、研究者が自由に活用できるようにしています。

他のデータセットとツールの紹介(例:OSCAR、Lucinda)

OpenCitationsは、他にもDOCI(DataCite Open Citations Index)やPOCI(PubMed Open Citations Index)といったデータセットを提供しています。

これらのデータセットは、DataCiteやPubMedの引用情報を収集し、オープンに公開しています。また、OSCARやLucindaといったツールも用意されており、ユーザーがデータを簡単に検索・ブラウズできる環境を提供しています。これにより、研究者が必要なデータを効率よく取得できるようになっています。

OpenCitationsのサポートの必要性と資金調達

OpenCitationsの継続と成長のためのメンバーシップ制度

OpenCitationsは、持続可能な運営とサービス拡充のために、メンバーシップ制度を導入しています。

学術機関や図書館、研究者、さらには公共機関などがメンバーとして参加し、財政的な支援を行うことで、OpenCitationsの活動を支えています。この支援により、データインフラの改善や新規プロジェクトの推進が可能になります。

会員レベルと特典(Supporting、Development、Strategic Membership)

OpenCitationsのメンバーシップは、以下の3つのレベルに分かれており、各レベルで異なる特典が提供されます:

会員レベルと特典

  • Supporting Membership(年会費€500〜€8,000)
    • OpenCitations Councilでの投票権
    • 年次ウェビナーへの参加権
    • 半年ごとの活動報告の受け取り
  • Development Membership(年会費€8,000〜€30,000)
    • Supporting Membershipの特典に加え、年次調査のフィードバック提供
    • ロゴをOpenCitationsのウェブサイトに掲載可能
  • Strategic Membership(年会費€30,000以上)
    • 国際諮問委員会の投票権付与

    各会員レベルに応じて、OpenCitationsの運営に関与する機会や、データやツールへの優先的なアクセスが提供されるため、メンバーは自身のニーズに合わせた支援と参加が可能です。

    寄付による支援とSCOSSの役割

    OpenCitationsは、メンバーシップ制度に加え、寄付による支援も受け付けています。

    特に、SCOSS(Global Sustainability Coalition for Open Science Services)の支援対象として、オープンサイエンスサービスの持続可能性を確保するための資金調達を行っています。SCOSSの支援により、OpenCitationsは国際的な学術コミュニティからのサポートを受け、長期的な運営基盤を強化しています。

    OpenCitationsの管理と組織運営

    ボローニャ大学と連携した財務管理

    OpenCitationsは、ボローニャ大学の「Research Centre for Open Scholarly Metadata」と連携し、財務管理を行っています。

    この連携により、OpenCitationsは学術的な信頼性と透明性を確保しつつ、効率的な財務運営が可能となっています。大学の専門的な管理サービスを活用することで、支援者からの寄付や会費の管理が円滑に行われています。

    国際的な協力とネットワーク活動

    OpenCitationsは、国際的な学術コミュニティとの協力を重視しています。

    特に、Initiative for Open Citations(I4OC)の主要メンバーとして、引用データのオープン化を推進しています。また、SCOSSからの支援を受け、オープンサイエンスサービスの持続可能性を確保するための活動を展開しています。このような国際的な協力体制は、OpenCitationsがオープンサイエンスの普及に貢献するための基盤となっています。

    OpenCitationsの今後の課題と展望

    継続的な資金確保の課題と戦略

    OpenCitationsの持続可能な運営には、安定した資金確保が不可欠です。

    現在、メンバーシップ制度や寄付、SCOSSからの支援を受けていますが、さらなる資金源の多様化が求められます。例えば、企業スポンサーシップの獲得や、国際的な助成金の申請などが、今後の運営基盤強化に向けた戦略として重要です。

    データ品質とデータ保護の重要性

    提供するデータの品質と保護は、OpenCitationsの信頼性を支える重要な要素です。

    データの正確性や完全性を維持するため、定期的なデータ更新やエラーチェックが行われています。また、データのオープン化に伴うプライバシーや知的財産権の保護にも配慮し、適切なライセンス設定や利用規約の整備が進められています。

    将来的な技術革新と国際的な普及展望

    OpenCitationsは、人工知能や機械学習を活用したデータ解析の高度化や、ユーザーインターフェースの改善など、技術革新を取り入れてサービスの向上を図っています。

    また、国際的な普及を目指し、多言語対応や地域コミュニティとの連携強化を進めており、グローバルな展開が期待されています。

    まとめ

    OpenCitationsは、学術文献の引用データをオープンに提供することで、研究の透明性と信頼性の向上、学術評価の多様化、社会全体の知的基盤の強化に貢献しています。今後も、持続可能な運営と技術革新を通じて、国際的な学術コミュニティとの連携を深め、オープンサイエンスの推進に寄与していくことが期待されます。

    参考

    OpenCitations. (n.d.). Welcome to the OpenCitations homepage! Retrieved November 11, 2024, from https://opencitations.net

    この記事を書いた人

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    学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

    学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

    専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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