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ROR(Research Organization Registry)は、学術機関を一意に識別するためのオープンで永続的な識別子を提供する重要なツールです。学術機関名の曖昧さや表記の違いにより、研究成果を正確に機関にリンクすることが難しい課題がありました。RORを活用することで、この問題を解決し、学術メタデータの質を向上させ、研究者と研究機関の透明性を高めます。CrossrefやDataCiteなどのプラットフォームとの連携も進んでおり、学術コミュニケーション全体での活用が期待されています。
RORとは?
学術機関識別子:RORとしての基本概念と背景
ROR(Research Organization Registry)とは、世界中の研究機関を識別するためのオープンで永続的な識別子を提供する仕組みです。
いままでは、研究機関の名前は異なる言語や書き方によって表記が変わることが多く、同じ機関を一貫して特定するのが難しい問題がありました。
たとえば例えば、アメリカの有名な大学である「カリフォルニア大学バークレー校」を考えてみます。この大学は、英語では「University of California, Berkeley」と表記されますが、異なる言語や文脈によって複数のバリエーションが存在します。
表記の違いの例:
- 英語表記: University of California, Berkeley
- 略称: UC Berkeley
- 日本語表記: カリフォルニア大学バークレー校
- 省略形: カリフォルニア大バークレー校
- 他のバリエーション: カリフォルニア州立大学バークレー校
これらの表記はすべて同じ大学を指していますが、データベースや論文、研究成果で使われる名前が異なると、システムや他の研究者が同じ大学であると判断するのが難しくなることがあります。
例えば、ある研究者が「UC Berkeley」として論文を提出し、別の論文では「University of California, Berkeley」という表記を使用した場合、それらが同じ大学に所属していることを機械的に判断するのは容易ではありません。
このような曖昧さが原因で、同じ大学で行われた研究成果が統一的に検索されず、重要なデータが見逃される可能性があります。ROR(Research Organization Registry)はこの問題を解決するために、一意の識別子を提供し、どの表記でも同じ機関を簡単に特定できるようにしています。
研究機関の名前は地域や言語によって異なるため、データベースで一貫して扱うのが難しい問題がありました。
そこで、RORを使うことで、この曖昧さを解消し、研究者やその成果を正確に特定の機関に結びつけることが容易になります。
RORの立ち上げと発展
RORは2019年にCrossref、DataCite、California Digital Libraryの協力により設立されました。
当初はDigital Scienceが提供するGRIDのデータを利用して、9万以上の機関が登録されていました。現在では110,000を超える機関がRORに登録され、APIを使って誰でもアクセスできるようになっています。オープンアクセスで、研究機関と研究成果を簡単に結びつけることができる便利なツールです。
RORのガバナンス構造と運営
RORは、特定の企業や商業団体に依存せず、学術機関のコミュニティによって運営されています。
CrossrefやDataCite、California Digital Libraryがその運営を担い、透明性を保ちながら運営されています。また、RORのデータはオープンで利用可能で、誰でも自由に使えることが特徴です。
RORの重要性と学術機関における利便性
RORの役割と学術メタデータの改善
RORを使うことで、学術出版における著者の所属機関情報を正確に管理できるようになります。
特にCrossrefやDataCiteのようなメタデータプラットフォームにおいては、ROR IDが導入されることで、研究成果と所属機関を正確にリンクしやすくなり、データの品質が向上します。また、学術的な成果が誰のもので、どの機関に属しているかを明確にできるため、研究の透明性や影響力を高めることができます。
RORの価値
研究機関と研究者の正確なつながりを保つことは、学術界で非常に重要です。
RORはこのつながりを強化し、研究機関がどれだけ影響力のある研究をしているかを正確に測定することが可能です。また、資金提供者や出版社にとっても、研究に関するメタデータが正確で透明性が高くなるため、研究の評価や資金提供のプロセスが効率的になります。
RORと他の識別子との比較
RORは、他の識別子(GRID)と密接に関連していますが、それぞれの役割や利用方法には違いがあります。以下の表で、RORの前身の識別子も含めて主要な識別子の特徴を簡単に解説します。
識別子名 | 管理団体 | URL | 主な特徴 | 状態 | 主な利用者 |
---|---|---|---|---|---|
ROR ID | Crossref、DataCite、California Digital Library | https://ror.org | オープンで無料、学術機関特化、相互運用性が高い | アクティブ | 学術機関、出版社、資金提供者、リポジトリ |
GRID ID | Digital Science | - | 学術機関向け識別子 | 終了(2021年にRORへ移行) | 学術機関、出版業界(過去利用) |
FundRef | Crossref | - | 研究資金提供機関の識別子。Crossrefは2022年にROR IDを導入。 | Open Funder Registry (OFR)へ名称変更 | 出版社、研究者、資金提供機関(過去利用) |
Open Funder Registry (OFR) | Crossref | https://www.crossref.org/services/funder-registry/ | FundRefの後継、研究資金提供機関を特定する識別子 | アクティブ(ただしOFRを廃止しRORに統合する長期計画を発表済み) | 出版社、研究者、資金提供機関 |
NID | NISTEP大学・公的機関名辞書の機関ID(NID) | https://www.nistep.go.jp/research/scisip/randd-on-university | 学術機関や研究者向けの識別子 | アクティブ | 学術機関、研究者 |
Wikidata entity ID | Wikimedia Foundation | https://www.wikidata.org | オープンデータベース内のエンティティを一意に識別するID | アクティブ | 学術機関、図書館、データサイエンス業界 |
Ringgold ID | Ringgold Inc. | https://www.ringgold.com | 学術機関や出版社の識別子 | アクティブ | 学術機関、出版業界 |
RORの相互運用性と他の識別子との連携
RORは、他の識別子システムとの相互運用性を持ち、さまざまなデータベースやメタデータプラットフォームと連携することが可能です。
J-STAGEでは、ROR以外の以下の主なIDを利用することが可能で、助成機関および助成事業に対応する識別子情報(助成機関/事業ID)を登録できるようになります。また、同じ助成金を指す複数の識別子を並列で登録することが可能です。助成機関/事業IDのタイプは、以下から選択できます。
J-STAGEで利用可能な助成期間識別子
- Crossref Funder ID(旧:FundRef ID)
- GRID ID
- ISNI
- ROR ID
- NID
- Wikidata entity ID
- Ringgold ID
- その他(上記以外のIDタイプ)
これにより、複数の識別子を柔軟に利用し、助成機関や助成事業に関する情報を一元的に管理することが可能です。
RORの特徴
RORは以下の特徴をもっており、一番の特徴はCC0ライセンスで提供されており、自由に利用可能です。
ROR(Research Organization Registry)の特徴
- 完全にオープン:データはCC0ライセンスで提供され、誰でも自由に利用可能です
- 学術機関に特化:研究組織の識別のみに焦点を当てています。
- コミュニティ主導:世界中の組織や個人によって支援されている団体です。
- 広範なカバレッジ:11万以上の組織のIDとメタデータを含んでいます。
- 定期的な更新:少なくとも月1回のペースでデータが更新されます。
RORは、学術コミュニケーションのエコシステムにおいて重要な役割を果たしており、その開放性と特化性により、多くの機関や出版社に採用されています。
RORの実際の活用方法
CrossrefにおけるROR IDの役割
Crossrefは、研究成果に関するメタデータを管理する重要なプラットフォームであり、2022年1月にROR IDを導入しました。
これにより、著者の所属機関を正確にリンクすることが可能になり、機関ごとの研究成果を簡単に検索・追跡することができます。これによって、研究者や学術機関は、自身の研究の影響力を正確に評価することができるようになりました。
DataCiteでのROR統合事例
データリポジトリであるDryadや、研究者識別子であるORCID、DOIメタデータ管理のDataCiteなどが、RORを統合しており、研究者の所属機関と研究成果を効率的にリンクしています。これにより、研究の透明性が高まり、データのトレーサビリティも向上しています。
学術機関と出版社がRORを活用する利点
学術機関や出版社は、RORを活用することで、研究者の所属情報を正確に管理し、学術コミュニケーションの効率を大幅に改善できます。また、資金提供者もRORを使用して、支援している研究機関や研究者を正確に追跡することができ、資金の配分や研究評価のプロセスを効率化します。
まとめ
RORは、学術機関の識別を効率化し、研究成果と機関のリンクを強化するための重要なツールです。
オープンで無料なシステムであり、多くの学術機関やプラットフォームで広く採用されています。今後も、RORは学術コミュニケーションにおいて欠かせない要素となるでしょう。特に、2024年のコミュニティミーティングでは、さらなる発展と利便性の向上が期待されており、研究機関や出版社が一層の効果を得られることが見込まれます。
参考
Crossref. (n.d.). Fundref: Funder Registry. Retrieved October 1, 2024, from https://www.crossref.org/services/funder-registry/
Crossref. (2023). Research Organization Registry (ROR). Retrieved from https://www.crossref.org/community/ror/
Research Organization Registry. (n.d.). About ROR. Retrieved October 1, 2024, from https://ror.org/about/