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香港原則(The Hong Kong Principles for Assessing Researchers)は、研究者評価において、従来の数値的な業績指標に依存せず、研究の質や責任ある実践を重視する新たな評価基準です。2019年に第6回世界研究公正会議で発表されたこの原則は、研究の透明性と再現性の確保を目指し、5つの基本方針を提唱しています。本記事では、香港原則の背景や意義、他の評価基準との比較、実践例や普及に向けた課題について詳しく解説します。
目次
- 1. 香港原則とは?その背景と目的
- 1.1. 香港原則が生まれた背景
- 1.2. 研究者評価の課題と現状
- 1.3. 香港原則の目的と意義
- 2. 香港原則の5つの基本原則とは
- 2.1. 香港原則の5つの基本原則を解説
- 3. 他の研究評価基準との比較
- 3.1. サンフランシスコ宣言(DORA)との比較
- 3.2. ライデンマニフェストとの相違点
- 4. 香港原則の実践例と導入状況
- 5. 香港原則がもたらす研究文化の変革
- 5.1. 研究者キャリアに対する影響と評価制度の変化
- 6. 香港原則導入に向けた課題と今後の展望
- 6.1. 技術的・制度的な課題とインフラ整備の必要性
- 6.2. 普及に向けた課題と国際的な連携の必要性
- 7. まとめ
- 8. 参考
香港原則とは?その背景と目的
香港原則が生まれた背景
香港原則(The Hong Kong Principles for Assessing Researchers)は、研究者評価が過度に業績数や影響力に偏重していた問題を背景に、2019年に第6回世界研究公正会議(World Conference on Research Integrity)で策定されました。
従来の評価基準は「ジャーナルインパクトファクター(JIF)」や「被引用数」など、量的な評価に偏っており、研究の質や透明性に対する評価が不足しているとの批判がありました。
この背景から、研究の透明性、再現性、責任ある実践を重視する新たな評価基準が求められるようになったのです。この原則は香港で策定され、第6回世界研究公正会議(World Conference on Research Integrity)で発表されたため、香港宣言ともいわれております。
研究者評価の課題と現状
研究者評価の現状には以下の課題があります。
現状研究評価の課題
- 数値的な評価基準の偏重:出版物の数や被引用数に基づく評価は、研究の質や誠実さを十分に評価していない
- 研究の再現性の問題:成果が再現されないことが多く、信頼性を損なっている
- 過剰な競争と倫理的問題:成果の競争が強まり、不正や倫理的問題が発生しやすくなる
香港原則はこれらの課題を是正し、研究の質を高めるとともに、研究者の評価基準を見直すことを目指しています。
香港原則の目的と意義
香港原則の目的は、研究者が「責任ある研究」を行うことに対し、正当な評価を与えることです。これにより、学術界における信頼性の向上、透明性の確保、倫理的な研究文化の推進が期待されています。
具体的には、以下の5つの原則に基づいて研究者を評価することで、誠実で透明性のある研究文化を促進することを目指しています。
香港宣言では、数値評価ではなく「5つの基本原則」に基づく研究者評価が提言されています。
香港原則の5つの基本原則とは
研究者評価において従来の数値指標から脱却し、信頼性と透明性を重視するために策定されたのが「香港原則」です。その中でも5つの基本原則を方針として掲げております。以下にその5つの基本原則を解説します。
香港原則の5つの基本原則を解説
香港原則の5つの基本
原則1 - 責任ある研究実践の評価
この原則は、研究の企画、デザイン、方法論、実行から発表まで、研究のすべての段階において責任ある実践を評価するものです。具体的な評価ポイントには以下が含まれます。
- 研究の透明性:研究の目的、方法論、データ収集方法が明確に説明されているか
- 再現性:他の研究者が再現可能な研究であるか
- 倫理的配慮:被験者やデータの取り扱いに対する倫理的な配慮がなされているか
これにより、研究の信頼性を向上させると同時に、責任ある研究が評価される体制を整備します。
原則2 - 完全かつ透明な報告の重視
完全な研究結果の報告が求められる理由は、選択的な報告が科学的証拠を歪める危険があるためです。この原則では、以下の点が強調されています。
- 結果の正確な報告:研究結果が肯定的であるか否かに関わらず、すべての結果を報告する
- データとプロトコルの共有:再分析や二次利用のために、データと研究プロトコルが共有される
- 登録レポートの活用:事前に設定した研究計画に基づき、研究の偏りを防止する
原則3 - オープンサイエンス(オープンリサーチ)の推進
この原則では、研究の過程と結果を公開する「オープンサイエンス」が評価基準に組み込まれています。オープンサイエンスの実践は、社会全体の研究成果のアクセスと活用を促進し、以下の点を重視します。
- オープンアクセス:研究成果を誰でも閲覧できるようにする
- データ共有:分析データやツールを公開し、他の研究者が利用可能な状態に保つ
- オープンピアレビュー:レビュー過程を公開することで透明性を高める
原則4 - 多様な研究成果の評価
従来の評価基準が特定の研究スタイルに偏重していたため、香港原則では以下のような多様な研究活動を評価対象としています。
- 再現研究:既存の研究成果を再確認する
- イノベーションと応用研究:新技術の開発や社会応用に貢献する研究
- メタ研究:他の研究を統合し、全体像を把握する
これにより、研究の多様性と創造性が評価され、広範な研究活動が支援されます。
原則5 - ピアレビューやメンタリングなどのその他の貢献の認識
最後の原則では、ピアレビューやメンタリング、社会貢献など、学術界への多様な貢献を評価します。これにより、研究者個人の活動だけでなく、学術コミュニティ全体への貢献が認められ、以下のような活動が評価対象に含まれます。
- ピアレビューの実施:査読や編集業務を通じた知識の共有
- メンタリング:後進の育成とサポート
- 学術界でのリーダーシップ:学会や委員会での役割
香港原則は、従来の数値評価から脱却し、上記のような研究の質や責任ある実践を評価するための重要な指針です。これらの5つの基本原則を通じて、研究の透明性や信頼性が向上し、研究者と社会との信頼関係が強化されることが期待されています。
他の研究評価基準との比較
サンフランシスコ宣言(DORA)との比較
香港原則とサンフランシスコ宣言(DORA)は、研究評価の改善を目指していますが、焦点に違いがあります。
DORAは、ジャーナルインパクトファクター(JIF)などの数値に頼らず、研究の質と多様な成果を評価することを提唱しています。一方で、香港原則は「研究の信頼性と透明性」にさらに焦点を当て、責任ある研究実践を重視しています。
サンフランシスコ宣言(DORA)とは?研究評価改革の意義とその影響
DORAは、学術評価の改善を目指す国際的な宣言です。ジャーナルインパクトファクターに依存しない公平な評価を推進し、研究の本質的価値を重視した評価基準を提唱しています。
ライデンマニフェストとの相違点
ライデンマニフェストは、研究評価におけるメトリクスの利用に関する指針を提供し、偏りのない評価を促進します。
香港原則は、さらに具体的に「オープンサイエンス」や「多様な貢献」への評価を推進しており、研究の透明性を実現することで、信頼性のある成果を生み出す環境の構築を目指しています。
香港原則の実践例と導入状況
香港原則は、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパなどで徐々に実施されています。例えば、以下のような実践が挙げられます。
香港原則の実践例
- カナダのSPOR:患者が研究プロセスに参加し、透明な研究プロジェクトが実施される体制が整っています。
- データ共有方針:オープンデータを促進するため、多くの大学がデータ共有のためのリポジトリを整備
- オープンサイエンスの推進:オーストラリアの大学や研究機関が、公開データやオープンレビューに対応
香港原則の導入により、少しずつ透明性の高い研究文化が広がりつつあります。
香港原則がもたらす研究文化の変革
研究者キャリアに対する影響と評価制度の変化
責任ある研究活動が評価されることで、研究者が長期的に誠実な活動を続けやすくなり、倫理的な研究が促進されます。これにより、研究者が数値的な評価に追われることなく、質を重視した活動を続ける環境が整備されつつあります。
また香港原則では、オープンサイエンスの推進しているため、研究結果が広く共有され、社会全体に利益をもたらします。透明性のある研究は、政策や医療の決定に反映されやすく、社会的信頼の向上にも寄与します。
香港原則導入に向けた課題と今後の展望
技術的・制度的な課題とインフラ整備の必要性
香港原則の導入には、制度的および技術的な課題が多く存在します。
まず、データの管理や透明性の確保のためには、研究データを適切に収集、管理、共有するためのインフラ整備が必須です。オープンサイエンスを支えるために、デジタルツールや共有プラットフォームの導入が求められ、これらが各国で統一的に整備されることにより、研究の再現性や透明性が向上すると期待されます。
また、従来の数値中心の評価から脱却し、研究の質や多様性を評価するための新しいメトリクスの開発が必要です。この新たな評価基準の確立により、香港原則の目的である責任ある研究評価が実現されるでしょう。
普及に向けた課題と国際的な連携の必要性
香港原則の普及には、各国の研究機関や学術コミュニティの理解と協力が不可欠です。
従来の評価基準から香港原則に基づく評価への移行は、制度的な変革を伴い、各国の研究者や関係者がその重要性を理解し支援することが求められます。
そのため、各国では普及のための啓発活動や教育機関での研修が進められていますが、国際的な連携も一層重要となります。また、資金提供者も香港原則に基づいた評価を採用することで、研究者が責任ある研究活動を行いやすくなる環境が整います。教育機関、資金提供者、研究者の協力が揃うことで、香港原則はさらに浸透し、持続可能で公正な研究文化が実現されることが期待されています。
まとめ
香港原則は、研究の信頼性を高め、研究者評価に革新をもたらす重要な指針です。
責任ある研究活動やオープンサイエンスの推進を通じて、研究の質が高まり、社会への貢献も増大します。香港原則の普及が進むことで、未来の研究者評価制度は、質を重視した公平で透明性のあるものへと変わっていくことが期待されます。
参考
Moher, D., Bouter, L., Kleinert, S., Glasziou, P., Sham, M. H., Barbour, V., Coriat, A. M., Foeger, N., & Dirnagl, U. (2020). The Hong Kong Principles for assessing researchers: Fostering research integrity. PLOS Biology, 18(7), e3000737. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3000737
World Conferences on Research Integrity Foundation. (n.d.). The Hong Kong Principles. Retrieved from https://www.wcrif.org/guidance/hong-kong-principles
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。