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自己剽窃とは、研究者が過去に発表した自らの著作物やデータを、あたかも新しい研究成果であるかのように再利用する行為を指します。通常の剽窃は他者の著作物を無断で使用する行為ですが、自己剽窃は自分自身の著作を使用するという点が異なります。ただし、研究倫理の観点から、自己剽窃も重大な問題とされています。本記事では、自己剽窃の定義とその倫理的な問題、さらに具体的な判断に迷うケースや論争について詳しく解説します。
自己剽窃の定義
自己剽窃とは
自己剽窃は自己盗用とも呼ばれ、他者からの盗用ではなく、研究者自身の過去の成果を新たな研究と誤解させる形で使用する行為です。
たとえば、同じデータや分析結果を複数回使用して新しい論文として発表する場合が該当します。このような行為は、著作権の侵害には直結しないものの、学術的な信頼性を損なう可能性があるため、一般的には自己剽窃とされ問題視されます。
剽窃と自己剽窃の違い
剽窃は、他者のアイデアや文章を無断で使用する行為を指し、著作権侵害に関わる場合が多いです。一方で、自己剽窃は自分の過去の研究を無断で使用するため、著作権問題は少ないですが、倫理的な問題を引き起こします。特に、学術的な新規性が損なわれ、同じ研究成果が複数回評価されることで、研究者の業績が過剰に評価されるリスクがあります。
自己剽窃が問題視される背景
自己剽窃が問題視される背景には、学術界における研究の透明性や信頼性の確保が挙げられます。
同じデータや文章が複数の論文で使用されると、研究成果が実際よりも多くあるかのように誤解され、他の研究者や読者に対して不正確な情報を与える可能性があります。これは、特に文献レビューやメタ分析において、誤った結論を導く原因となるため、学術界では深刻な問題とされています。
また、自己剽窃は研究倫理上、透明性と公正性に反する行為と見なされます。
自己剽窃に関する主要な論争
自己剽窃に関する議論は、学術界で継続的に行われており、特にデータの再利用や分割投稿(サラミ論文)に関する論争が注目されています。
これらの行為は、時には許容される場合もありますが、慎重な判断が必要です。
データの再利用と自己剽窃の境界
研究では、同じデータセットが異なる研究テーマで使用されることがあります。
この場合、自己剽窃と見なされるかどうかは、新たな分析や解釈が加わっているかどうかによって判断されることが一般的です。たとえば、過去のデータを再解析し、新しい洞察を引き出す場合は自己剽窃とみなされないことが多いですが、単に同じデータを繰り返し使用するだけでは自己剽窃と見なされる可能性があります。
分割投稿(サラミ論文)と自己剽窃
分割投稿(サラミ論文)とは、一つの研究をいくつかの部分に分けて複数の論文として発表する行為です。
これは、研究者がより多くの発表を行うために行われることが多いですが、研究全体の意義や質を損なうことがあります。このような行為は自己剽窃とみなされる場合が多く、学術誌や学会では厳しく規制されることが増えています。
自己剽窃しないために自己剽窃の対策
自己剽窃を防ぐためには、研究者個人だけでなく、学術誌や機関全体での取り組みが必要です。
出版社・学術誌の対策
投稿時の明示
一部の学術誌では、投稿時に過去の研究成果の使用状況を明示することを求めています。
例えば
- 過去に発表した論文との関連性を説明すること
- 使用するデータや結果が過去の論文と重複する場合、その旨を明記すること
- 新規性のある部分を明確に示すこと
誓約書の提出
一部の出版社では、自己剽窃を防ぐための誓約書の提出を要求しています。この誓約書には以下のような内容が含まれることがあります。
例えば
- 投稿論文が未発表のオリジナル研究であることの宣言
- 過去の自身の研究を適切に引用していることの確認
- 重複出版や自己剽窃に該当しないことの保証
類似性チェックツールの利用
多くの学術誌は、投稿された論文に対して剽窃チェックツールを使用しています。これには自己剽窃のチェックも含まれます。
近年、自己剽窃を検出するためのソフトウェアが多くの学術誌で導入されています。これにより、同じ文章やデータが使用された場合、自動的に検出され、著者や編集者に警告が発せられます。このような技術により自己剽窃のリスクは減少しています。
引用の要求
自身の過去の研究を再利用する場合、適切な引用を行うことが求められます。以下のようなケースが含まれます。
例えば
- 過去の論文から図表を再利用する場合、出典を明記すること
- 方法論の記述が類似する場合、元の論文を引用すること
これらのガイドラインは、研究の透明性を高め、読者に正確な情報を提供するとともに、研究者の倫理的な行動を促すことを目的としています
著者の対策
自己剽窃・自己盗用を避けるためには、まず過去の研究成果との重複を避けることが重要です。
同じデータや文章を再利用する場合には、その使用を明示し、新たな視点や分析を加えることで新規性を保つことが求められます。また、研究者自身が過去の成果を適切に引用し、重複利用を避けることが大切です。
自己剽窃かどうかの判断に迷う具体的なケース
自己剽窃かどうかの判断が難しい具体的なケースをいくつか例示します。これらのケースでは、研究者や学術誌のガイドラインに基づいて慎重に判断する必要があります。
自己剽窃と迷う具体的事例
1. 過去の論文を基にした拡張研究
- ケース: 研究者が過去の論文で発表したデータや分析結果を基に、その研究をさらに発展させた新しい論文を発表する場合。
- 問題点: 既に発表済みのデータや考察が、新しい研究かのように再利用されると自己剽窃と見なされる可能性があります。ただし、新たな分析や視点、追加のデータが加わっていれば、自己剽窃とはならない場合もあります。
- 判断基準: 拡張された部分が明確に新しいかどうかがポイントです。過去のデータの使用は正当であっても、それを明確に引用する必要があります。
2. 同じデータセットの複数利用
- ケース: 研究者が同じデータセットを用いて異なる研究テーマで複数の論文を発表する場合。
- 問題点: 同じデータが複数の論文で使用されていると、読者に対して新規性のない研究として誤解を招く可能性があります。
- 判断基準: 異なる分析手法や新たな視点が加わっていれば問題にはなりませんが、同じデータを再利用する場合はそのことを明示し、過去の論文を引用することが必要です。
3. 自己引用の多用
- ケース: 自身の過去の論文や著作から、同じ文章や表現をそのまま再利用して新しい論文に掲載する場合。
- 問題点: 自己引用が過度に行われ、他の論文や研究成果の引用が軽視されると、自己剽窃とみなされる可能性があります。また、文章そのものの再利用が多い場合、剽窃チェックツールなどで自己剽窃と判断されやすいです。
- 判断基準: 過去の文章をそのまま使用する際には、適切に引用を行う必要があります。また、文章の量や重要性によっては、再利用が不適切と見なされることもあります。
4. 学会発表内容を基にした論文執筆
- ケース: 研究者が学会で発表した内容を基に、学術誌に同じ内容で論文を投稿する場合。
- 問題点: 学会発表は一般的に「未発表の研究」として扱われるため、その内容をそのまま論文に流用すると自己剽窃と見なされる可能性があります。
- 判断基準: 学会発表内容が一般公開されておらず、学術誌への投稿が初めての公表であれば問題にはならないことが多いですが、発表内容がすでに広く公開されている場合には注意が必要です。これは学術団体や、出版社に確認を取るべきです
5. 同じ内容を異なる聴衆向けに再発表
- ケース: 同じ研究内容を異なる学会や雑誌で発表する場合。
- 問題点: 異なる聴衆向けに同じ内容を再発表することは、自己剽窃と見なされる場合があります。特に、同じ文章やデータを使い回すと問題です。
- 判断基準: 内容が異なる文脈や目的に適合しており、明確に異なる視点が提供されていれば自己剽窃とはみなされないことがあります。しかし、基本的に同じ研究内容を別の場で再利用する際には慎重な判断が求められます。
6. 修士論文や博士論文の一部を論文として発表
- 判断基準: 修士論文や博士論文の一部を基に論文を投稿する際には、その事実を明示し、適切に引用することが必要です。また、論文として投稿する際には新たな内容や分析が加えられていることが求められます。
- ケース: 修士論文や博士論文で発表した内容を基に、学術誌に論文として投稿する場合。
- 問題点: 修士論文や博士論文の内容をそのまま再利用すると、自己剽窃と見なされる可能性があります。特に、学位論文がオンラインで公開されている場合は、既に発表済みと見なされます。
上記内容はあくまでも例です。この内容が必ず自己剽窃にあたるかということではございません。分野や内容によることろが多いため投稿前に学術誌のガイドラインの確認や、投稿時に出版社に確認をしてください。
自己剽窃・自己盗用チェックシート
このチェックシートは、自己剽窃のリスクを評価するためのサンプルです。これは、具体的な状況や分野によって判断が異なる場合があります。不明点がある場合は、出版社等にご相談ください。
以下の質問に対して、「はい」「いいえ」「該当なし」で回答してください。「はい」の回答が多いほど、自己剽窃のリスクが高くなります。
質問 | はい | いいえ | 該当なし |
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1. コンテンツの重複 | |||
1.1. 過去の自作から、段落全体をそのまま再利用していますか? | □ | □ | □ |
1.2. 過去の自作から、文章を一部変更しただけで再利用していますか? | □ | □ | □ |
1.3. 過去の自作のアイデアや結論を、新たな分析や考察なしに再利用していますか? | □ | □ | □ |
2. 引用と出典 | |||
2.1. 過去の自作から引用する際、適切な引用表記をしていますか? | □ | □ | □ |
2.2. 自身の過去の研究や出版物を参考文献として明記していますか? | □ | □ | □ |
3. 出版と著作権 | |||
3.1. 既に出版された自作の一部を、著作権者の許可なく再利用していますか? | □ | □ | □ |
3.2. 同じ内容を複数の出版物に投稿していますか? | □ | □ | □ |
4. 新規性と独自性 | |||
4.1. 新しい作品に、過去の自作と比べて実質的な新規性がありますか? | □ | □ | □ |
4.2. 過去の自作のデータや図表を、新たな分析や解釈なしに再利用していますか? | □ | □ | □ |
5. 透明性 | |||
5.1. 編集者や読者に対して、過去の自作との関連性を明確に説明していますか? | □ | □ | □ |
評価方法:
- 「はい」の回答が3つ以下:自己剽窃のリスクは低いでしょう。
- 「はい」の回答が4〜6つ:一部の内容を見直し、必要に応じて修正してください。
- 「はい」の回答が7つ以上:自己剽窃のリスクが高いです。内容を大幅に見直してください。
このチェックシートを使用することで、自己剽窃のリスクを評価し、必要な修正を行うことができます。ただし、これはあくまでチェックシートの例であり、具体的な状況や分野の慣行によっては判断が異なる場合があります。不明な点がある場合は、所属機関の倫理委員会や出版社に相談することをお勧めします。
まとめ
自己剽窃は、学術研究における信頼性や透明性を損なうリスクがあるため、避けるべき重要な倫理的課題です。研究者は、過去の研究成果との重複を避け、新しい知見を提供することが求められます。
特に、学術界では自己剽窃を防ぐためのガイドラインが整備されつつあり、研究者自身が倫理的に正しい行動を取ることが重要です。また、技術の進歩により、自己剽窃の検出が容易になっているため、透明性の高い研究を行うことが求められます。
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。