謝辞は、研究における協力者や支援者への感謝を表し、学術界での信頼関係と連携を深める重要な部分です。本記事では、ICMJE(国際医学雑誌編集者委員会)のガイドラインに基づき、適切な謝辞の書き方と、注意点、具体的な例文を解説します。研究の透明性を高めるため、支援者の明示や役割の具体化が重要であり、研究者としての倫理観が求められます。

謝辞の概要と重要性

謝辞とは

謝辞(Acknowledgments)とは、研究の遂行や論文の作成にあたり、著者が受けた支援や協力に対する感謝を示す部分です。

謝辞とは、研究プロセスの透明性を保つことに寄与し、協力者との信頼関係を明示するためにも欠かせません。適切な謝辞は、学術的な成果を支える人的・組織的なリソースへの敬意を表すものです。

謝辞の重要性

謝辞を記すことには、研究の過程を透明にするだけでなく、支援者や資金提供者への敬意を表明する意義があります。また、学術コミュニティの結束を高め、さらなる協力関係を築くきっかけにもなります。

謝辞の重要性

  • 研究の透明性向上:支援者や協力内容を明示することで、研究プロセスがより透明になります。
  • 協力者への敬意表明:支援や協力を得た関係者への敬意を示し、信頼関係を強化します。
  • 研究資金の出所明示:助成金などの資金提供者への感謝を記載し、経済的な支援の正当性を示します。
  • 学術コミュニティの結束強化:協力関係を公に示すことで、学術界の一体感を高めます。

謝辞で抑えるべきポイント

謝辞を書く際には、読者に対して明確かつ過度に感情的でない表現を心がけることが求められます。

ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)のガイドラインは、医療系論文の作成・投稿・出版において高い透明性と倫理基準を維持するための国際基準として知られています。特に謝辞については、著者資格を満たさない個人や組織への感謝を示す重要なセクションであると定義しています。

以下では、ICMJEガイドラインに基づいた謝辞の記載方法に関する具体的な指針を引用し、謝辞において抑えるべきポイントを解説しています。

謝辞で抑えるべきポイント(ICMJEのガイドラインより)

謝辞に関する記載

謝辞は、研究者や論文の投稿者が研究や論文作成において貢献してくれたが、著者としては基準に満たない方々への感謝の意を表す部分です。

この部分では、貢献者の役割を具体的に明示することが推奨されており、謝辞に含める貢献の例として以下のものが挙げられています:

  1. 資金提供:研究資金や助成金を提供してくれた組織や団体。
  2. 一般的な監督や管理サポート:研究グループや研究サポートを提供したが、直接的な研究への貢献を行わなかった支援者。
  3. ライティング支援や編集サポート:校正や言語の編集支援を行った個人や団体。

人工知能(AI)の使用に関する謝辞

ICMJEのガイドラインでは、AIや生成AIのツール(例えば、ChatGPTのような大規模言語モデルや画像生成AI)をライティングやデータ分析、画像作成の補助として使用した場合、その使用は謝辞の中で明記するべきとされています。

この場合、使用したツールの名称やその目的を謝辞にて説明することが求められています。

記載の注意点

  • 謝辞に含める人物には、その記載の許可を事前に得ることが推奨されています。
  • 謝辞に名前を記載することで、その研究におけるデータや結論に対して承認や賛同していると見なされる可能性があるため、許可の取得が重要です。

上記のように、謝辞は論文の倫理的な側面にも関わる重要な要素と見なされており、研究に関与した個人や支援を行った機関への適切な感謝表明が求められています。

ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会):医学雑誌出版の統一ガイドライン

ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)は、国際的な医学出版のガイドラインを提供し、透明性と倫理性を促進する団体です。このガイドライン世界中の医学系学術雑誌で広く利用されております。

謝辞の対象・対象外の人物・組織

謝辞の対象になる場合

論文の謝辞には、研究に直接的な貢献があった人物や組織を記載します。

以下のような方々や機関に対して、具体的な貢献内容を述べることで、感謝の意を明確に伝えられます。

謝辞の対象になる場合

  • 研究指導者や助言者:研究の計画や実施において指導・助言を行った指導教員や教授
  • 技術的支援を提供した個人や組織:実験装置の操作指導やデータ収集をサポートしてくれた方々
  • 研究資金の提供者:助成金や研究費を提供してくれた財団や機関
  • 実験設備や材料の提供者:使用した実験機材や試薬の提供を行った企業や研究所
  • データ収集や分析に協力した人物:データ提供や統計処理に協力した専門家や研究室
  • 重要な議論や意見交換をした同僚:研究に有益な意見やアドバイスを提供してくれた研究仲間

謝辞の対象外となる場合

謝辞に記載しないのが適切とされる人物や関係者もあります。以下はその例です。

謝辞の対象にならない場合

  • 共著者:論文に共著者として名を連ねる人々は、謝辞の対象外です。
  • 研究に直接関与していない家族や友人:個人的な支援のみを提供した場合には通常含めません。
  • 職務の範囲内で支援した事務職員:通常の業務で関与した事務職員は対象外です。

論文の中で「謝辞」はどこに記載するのか?「謝辞の書き方は?」数多くの編集経験から解説します。

謝辞を記載する場所

論文内の謝辞の配置は、ジャーナルの投稿規定によって異なる場合がありますが一般的には、謝辞配置は本文の最後、参考文献リストの前が本文の内容と密接に関連する場合に適しています。

それ以外でも、参考文献リストの後として参考文献の後に独立したセクションとして掲載される場合や、脚注や巻末注として論文の分量が多い場合などがあり、特殊な事例としてはタイトルページに一部のジャーナルでは記載が求められるような場合もあります。

投稿先のジャーナルの投稿規定に従い、適切な位置に記載することが大切です。

謝辞の書き方

謝辞は読み手に伝わりやすい構成を心がけると良いです。

以下の基本構造に沿って記載すると、感謝の意がスムーズに伝わります。

謝辞の基本構造

謝辞については基本的は3~4つの要素でできる1パラグラフ(1文節)で書くことが一般的です。

以下にその要素の基本構造とその内容を解説します。

謝辞の基本構造

  1. 導入文:謝辞全体の冒頭で、一般的な感謝の言葉を述べます。
  2. 具体的な貢献内容:支援者や関係者ごとに貢献内容を具体的に記述します。
  3. 資金提供の明記(資金提供があった場合):助成金や資金提供を受けた場合には、その情報を含めます。
  4. 結びの言葉:感謝をまとめ、簡潔な文で締めくくります。

謝辞の構造を分解

謝辞の構造ごとの例文

1. 導入文

謝辞全体の冒頭で、一般的な感謝の言葉を述べます。

例文:「本研究にご協力いただいた全ての皆様に感謝いたします。」

2. 具体的な貢献内容

支援者や関係者ごとに貢献内容を具体的に記述します。

例文:「特に、〇〇教授には研究計画から助言を賜り、□□氏にはデータ分析での支援をいただきました。」

3. 資金提供の明記(資金提供を受けた場合)

助成金や資金提供を受けた場合には、その情報を含めます。

例文:「また、本研究は△△財団からの研究助成金(助成番号:XXXX)を受けて実施されました。」

4. 結びの言葉

感謝をまとめ、簡潔な文で締めくくります。

例文:「皆様のご支援に心より感謝いたします。」

上記の構造を盛り込むことで、謝辞の1文節となります。

謝辞の例文

本研究にご協力いただいた全ての皆様に感謝いたします。特に〇〇教授には研究計画からの助言を、□□氏にはデータ分析での支援をいただきました。また、△△財団からの研究助成金(助成番号:XXXX)により本研究を実施できました。皆様のご支援に心より感謝いたします。

謝辞の書き方の注意点

謝辞の文章を書く際の注意点を以下にまとめました。

謝辞の書き方の注意点

  • 公式かつ専門的な言葉遣いを用い、過度に感情的な表現を避けます。
  • 各貢献者の役割を具体的に述べ、支援内容を明確に示します。
  • 敬称の使用:「氏」「博士」「教授」など適切な敬称をつけ、感謝の意を伝えます。
  • 1パラグラフ程度に抑えると、読みやすく整理された印象になります。
  • 記載前に対象者の許可を得ることも重要です。

分野別の謝辞の書き方事例(日本語と英語)

謝辞の内容は、研究分野や対象に応じて変わる場合があります。

以下に分野別でよく使われる謝辞の例を日本語と英語で紹介します。

分野日本語例文英語訳
自然科学本研究を遂行するにあたり、〇〇大学の△△教授には実験設計に関する貴重な助言をいただきました。I would like to express my gratitude to Professor △△ of 〇〇 University for valuable advice.
医学本研究は、□□病院の患者様のご協力なしには成し得ませんでした。ここに深謝いたします。This study would not have been possible without the cooperation of the patients at □□ Hospital.
工学本研究で使用した装置の開発にあたり、〇〇株式会社の△△氏に多大なる技術的支援をいただきました。We would like to thank Mr. △△ of 〇〇 Corporation for his technical support in developing devices.
社会科学本調査の実施にあたり、〇〇市役所の皆様にご協力をいただきました。感謝申し上げます。We are grateful to the staff of 〇〇 City Hall for their cooperation in conducting this survey.
人文科学貴重な資料提供をしてくださった〇〇図書館の皆様に感謝申し上げます。We would like to thank the staff at XX Library for providing invaluable resources.
分野別の謝辞の事例

日本語と英語の謝辞例文集

分野の事例以外でも一般的な謝辞事例を以下に示します。これは様々な場面に適した謝辞の例文です。

これらを参考にして、具体的な状況に合わせてご利用ください。

日本語例文英語訳
〇〇教授には本研究の指導を賜り、深く感謝いたします。I am deeply grateful to Professor XX for his guidance throughout this research.
実験をサポートしてくれた〇〇さんに、心より感謝申し上げます。My heartfelt thanks go to Mr. XX for his support in the experiments.
データ提供をいただいた〇〇株式会社の皆様に感謝申し上げます。My gratitude goes to XX Corporation for providing the necessary data.
研究資金を提供していただいた△△財団に深く感謝申し上げます。I am deeply appreciative of the funding provided by the XX Foundation.
本論文の英文校正に協力いただいた□□氏に多大なるご協力をいただきました。We thank Dr. □□ for his assistance in proofreading the English manuscript.
一般的な謝辞の事例

まとめ

論文の謝辞は、研究における協力や支援を受けた方々に対する感謝の意を示す重要なパートです。

以下のポイントを意識して記載することで、適切で効果的な謝辞を作成できます。

  • 適切な対象者の選定:研究に直接的な貢献をしてくれた人物・機関に対して感謝を述べます。
  • 具体的かつ簡潔な記述:貢献内容をわかりやすく示し、過度な装飾を避けます。
  • 敬意と礼儀を表す表現:公式で丁寧な表現を使用し、敬意を示します。
  • 投稿規定の確認:論文の種類やジャーナルの指示に従って、適切な位置に謝辞を配置します。

謝辞は、研究者としての倫理観や協力関係の重要性を示す要素であり、学術界での信頼と連携を深める機会となります。

参考

International Committee of Medical Journal Editors. (2024). Recommendations for the conduct, reporting, editing, and publication of scholarly work in medical journalshttps://www.icmje.org/recommendations/

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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