ブダペストオープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、学術研究の成果を誰もが無料でアクセスできるようにすることを目的とした国際的な取り組みです。2002年に発表され、研究者や教育者に公平な情報アクセスを提供し、知識の共有を促進します。この記事では、BOAIの定義や著作権における著者の権利、セルフアーカイブとオープンアクセスジャーナルの2つの戦略を詳しく解説します。

ブタペストオープンアクセスイニシアチブ(BOAI)とは?

BOAIが発足した背景と目的

ブダペストオープンアクセスイニシアチブ(Budapest Open Access Initiative:BOAI)とは、学術研究成果への無料でのアクセスを推進することを目的とした国際的な取り組みです。

ブダペストオープンアクセスイニシアチブ発足の経緯:

 2001年12月1-2日:ブダペストで、オープン・ソサエティ・インスティテュート主催のオープンアクセスに関する国際会議が開催され、そのなかでオープンアクセスに関する小規模かつ活発な会議が行われました。

 2002年2月14日:翌年この会議での議論を基に、「ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブ(BOAI)宣言」が発表されました。

この宣言は一般に「ブダペスト宣言」とも呼ばれています。

ブダペスト宣言は、オープンアクセスの概念を明確に定義し、その実現方法を提案した文書です

この宣言は、従来の商業出版社による高額な購読料に依存した学術出版モデルに対抗し、研究成果が誰にでも無料でアクセス可能であるべきだという理念を示しました。


ブタペストオープンアクセスイニシアチブ(BOAI)の主な目標は、査読(ピアレビュー)を経た学術研究成果を、無料で誰もが利用できる形で公開することです。

これにより、経済的な制約や地域の違いにかかわらず、世界中の研究者や教育者が最新の学術情報にアクセスできる社会を目指しています

BOAIコンソーシアム

ブタペストオープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、研究者、教育機関、図書館、出版社、資金提供者からなる国際的なコンソーシアムです。

ブタペストオープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、学術出版の従来の商業モデルに代わるものとして、オープンアクセスを標準化することを目指しており、具体的な活動には、機関リポジトリの設立支援、オープンアクセスジャーナルの普及、研究助成金の利用促進が含まれます。また、オープンアクセスの普及を通じて、学術成果の持続的な共有と保存を支援しています。

(出典:Budapest Open Access Initiative. "Read the Budapest Open Access Initiative." https://www.budapestopenaccessinitiative.org/

ブダペスト宣言が定義したオープンアクセスを詳細解説

ブダペスト宣言の基本定義

原文引用:ブダペスト宣言の基本定義

オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、オープンアクセスを次のように定義しています:

"By 'open access' to this literature, we mean its free availability on the public internet, permitting any users to read, download, copy, distribute, print, search, or link to the full texts of these articles, crawl them for indexing, pass them as data to software, or use them for any other lawful purpose, without financial, legal, or technical barriers other than those inseparable from gaining access to the internet itself."

(出典:Budapest Open Access Initiative, 2002, https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read

この文章を翻訳すると:

「オープンアクセスとは、インターネット上で自由に利用できることを意味し、すべてのユーザーが、財政的・法的・技術的な障壁なく、これらの文献を読む、ダウンロードする、コピーする、配布する、印刷する、検索する、リンクを貼る、インデックスを作成するためにクロールする、データとしてソフトウェアに提供する、その他の合法的な目的で使用することが可能です。ただし、インターネットアクセス自体に伴う制約を除きます。」

この定義の解説

BOAIは、オープンアクセスを単なる「無料で読むことができる」状態にとどめず、さらに進んで文献の再利用が可能である状態を指しています。

具体的には、論文をダウンロードして印刷するだけでなく、データとしてソフトウェアに取り込んで利用したり、他の合法的な目的に使用したりすることが可能と書かれており、BOAIの定義は、研究成果を広く共有(再利用)し、知識の民主化を推進することが重要な要素です。

オープンアクセスにおける著作権と著者の権利

著作権における著者の権利

原文引用:著作権における著者の権利

続けて、オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)では、著作権における著者の権利について次のように述べています:

"The only role for copyright in this domain should be to give authors control over the integrity of their work and the right to be properly acknowledged and cited."


(出典:Budapest Open Access Initiative, 2002, https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read

この文章を翻訳すると:

「この領域における著作権の唯一の役割は、著作者が自分の著作物の完全性を管理し、適切な謝辞と引用を受ける権利を与えることである。」

この定義の詳細な解説

BOAIの定義では、オープンアクセス文献における著作権の役割は、著者に2つの重要な権利を提供することに限定されています。

それが「同一性保持(作品の完全性の保持)」と「適切な引用を受ける権利」です。

この2つの権利は、著者の知的財産が誤用や誤解を防ぐために極めて重要です。

「同一性保持(作品の完全性の保持)」と「適切な引用を受ける権利」の解説:

  • 同一性保持(Integrity of Work)

同一性保持とは、著者の作品が無断で改変されないようにする権利を指します。著者が発表した論文やデータが他者によって意図せず改変され、誤った情報として利用されることを防ぐために必要な権利です。

事例
例えば、ある研究者がCOVID-19に関する論文を発表した場合、そのデータや結論が無断で改変され、誤った形で別の研究やメディアで引用された場合、研究の意味が歪められる可能性があります。具体的には、研究の一部を抜粋して誤解を招く形で利用されたり、データが改変されて誤った結論が導かれた場合、これは著者の「同一性保持」の権利を侵害する行為となります。

  • 適切な引用を受ける権利(Right to Be Properly Acknowledged and Cited)

適切な引用を受ける権利とは、他者が著者の研究成果を利用する際に、著者の貢献が適切に認識され、正しく引用される権利を指します。これは、研究成果が他の研究に基づく場合、その元の論文やデータの著者がきちんと明示されることを意味します。

事例
ある学者が特定の病気の新治療法に関する論文を発表し、それを別の研究者が参照して研究を進める場合、その元の論文が正しく引用され、著者の名前や発表年、論文の出典が明示される必要があります。適切な引用が行われなければ、著者の貢献が正当に評価されず、他者がその研究成果を不当に利用することになります。

オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)の定義に基づけば、オープンアクセスは自由な利用を可能にする一方で、著者が自分の研究がどのように利用されているかを知り、その貢献が正しく評価されることを保障しています。

オープンアクセスの実現方法:セルフアーカイブとオープンアクセスジャーナル

オープンアクセスの2つの補完的戦略

原文引用:オープンアクセスの2つの補完的戦略

最後にBOAIでの定義では、学術雑誌の文献へのオープンアクセスを実現するために、次の2つの補完的な戦略を提唱しています。

"We recommend two complementary strategies to achieve open access to scholarly journal literature:
I. Self-archiving: First, scholars need the tools and assistance to deposit their refereed journal articles in open electronic archives, a practice commonly called, self-archiving.
II. Open-access journals: Second, scholars need the means to launch a new generation of journals committed to open access, and to help existing journals that decide to make the transition to open access."

(出典:Budapest Open Access Initiative, 2002, https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read

この文章を翻訳すると:

「学術雑誌の文献へのオープンアクセスを実現するために、2つの補完的な戦略を提案します:
  I. セルフアーカイブ:まず、研究者が査読付きジャーナル論文をオープンな電子アーカイブに預けるためのツールと支援が必要です。この方法は一般にセルフアーカイブと呼ばれます。
  II. オープンアクセスジャーナル:次に、研究者がオープンアクセスに取り組む新しい世代のジャーナルを立ち上げる手段、そして既存のジャーナルがオープンアクセスに移行するための支援が必要です。」

セルフアーカイブの解説

セルフアーカイブとは、研究者が自らの研究論文をオープンアクセスのリポジトリに預ける行為です。

これにより、論文が商業出版社の有料のプラットフォームを経ずに、自由にアクセスできるようになります。オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、セルフアーカイブを推進するために、研究者に対する技術的支援やインフラの整備を重要視しています。

オープンアクセスジャーナルの解説

オープンアクセスジャーナルとは、学術論文を無料で公開することを目的としたジャーナルです。

オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、新しいオープンアクセスジャーナルを立ち上げる方法を支援するとともに、既存の有料ジャーナルがオープンアクセスモデルに移行するためのサポートも提供しています。

このようなジャーナルは、著作権を利用してすべての論文への恒久的なオープンアクセスを確保し、従来の購読料モデル(APC)に代わる新しい資金調達方法を模索しています。

まとめ

オープンアクセスイニシアチブ(BOAI)は、学術研究成果を自由に利用できる社会を目指している取り組みです。

著作権の役割を限定し、著者に対して「同一性保持」と「適切な引用を受ける権利」を付与することで、研究成果が正しい形で利用され、知識が正確に共有されることを保障しています。

セルフアーカイブとオープンアクセスジャーナルの2つの戦略を組み合わせることで、BOAIは学術界全体にオープンアクセスの理念を普及させ、学問の発展に貢献しています。


参考


Budapest Open Access Initiative. (2002). Read the Budapest Open Access Initiativehttps://www.budapestopenaccessinitiative.org/read

この記事を書いた人

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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