学術研究における盗用は、研究者の信頼を損ない、学術的な倫理に反する重大な問題です。そのため、論文や研究成果が他者のアイデアや表現を不正に使用していないか確認するためのツールが必要です。こうした背景の中で、Similarity Checkは、論文のオリジナリティを保ち、盗用を防止するために開発されました。本記事では、このツールの概要や仕組み、数値の目安などについて解説します。

Similarity Checkとは?

Similarity Checkは、Turnitin社のiThenticate技術を基盤とし、CrossRefが提供する学術論文向けの剽窃・盗用防止ツールです。

利用者がアップロードした論文などの記事を膨大なデータベースと照合し、類似度をパーセンテージで示します。類似度の結果をもとに、研究者や編集者は論文が他の文献とどの程度一致しているかを確認し、必要に応じて修正や引用を行うことができます。

Similarity Checkは特に、学術機関や出版社で利用されており、公正な研究活動をサポートする役割を果たしています。Similarity Checkは、他の盗用防止ツールと異なり、学術論文データベースと密接に連携しており、高い精度で盗用のリスクを検出します。

Similarity Checkの仕組み

Similarity Checkの仕組み

Similarity Checkは、約900億のWebページや1億6500万件のジャーナル記事、書籍などの文献をデータベースに持ち、アップロードされた論文を照合します。

照合の結果、類似度がパーセンテージで表示され、具体的な類似箇所は色分けされたマーカーで示されます。これにより、研究者は自分の論文が他の文献とどの部分で一致しているかを簡単に確認でき、修正が必要な箇所に迅速に対処できます。

Similarity Checkの重要性

学術論文におけるオリジナリティの維持

学術論文では、オリジナリティを保つことが非常に重要です。

他者の研究を適切に引用し、研究者自身の新しい知見を示すことが求められます。Similarity Checkは、無意識のうちに発生する盗用リスクを事前に検出し、論文のオリジナリティを守るために役立ちます。

「Similarity Check」は何パーセント以上で注するべきか? 解説します。

Similarity Checkの数値の目安

Similarity Checkの数値目安

Similarity Checkの結果を解析する際には、単に照合結果の数値を定量的な基準とするのではなく、以下のポイントに注意を払うことが重要です。

1.絶対的な基準

 学術誌や分野によって基準が異なるため、定量的に一律の数値基準を設けることは適切ではありません。

2.Similarity Checkの数値の目安

 ただし、学術誌によっては以下のような簡単な目安を設けている場合もございます。

Similarity Checkの数値目安

 25%以下:通常問題なし

 25-40%:要注意、詳細確認が必要

 40%以上:高リスク、著者への説明要求や書き直しを検討

3.1つの文献との類似度

 1つの文献との類似度が10%程度を超える場合は、何か理由がある可能性があり、特に内容の確認が必要です。

4.文脈の考慮

単純な数値だけでなく、類似箇所の内容や文脈を考慮して判断することが重要です。

例えば、論文内で「方法を記載しているセクション」では、研究の手順やデータの取り扱い方が多くの研究で共通しているため、他の文献と類似することがよくあります。
これらの部分がSimilarity Checkで高い類似度を示しても、それは盗用ではなく、研究において一般的に使用される表現だからです。また、専門用語や標準的な表現(例えば、統計手法の名称や実験のデザインの説明など)は、多くの論文で使用されるため、これらが高い類似度を示しても問題にはなりません。

具体例:

論文の「実験方法」で「●●●●を使用してデータを分析した」という文が他の論文と一致しても、この表現は多くの研究で使用されるため、盗用と見なされることはありません。
しかし、「考察セクション」や「結論セクション」で他の論文の文章がそのまま使われている場合、オリジナリティの欠如として問題視される可能性があります。

5.自己剽窃への注意

著者自身の過去の論文との高い類似度も、適切な引用がない場合は問題となる可能性があります。

自己剽窃とは、著者が自分の過去の論文や研究を再利用しながらも、それを適切に引用しない行為を指します。特に、同じ研究テーマやデータを使っている場合、過去の研究の一部を再利用することがあると思います。Similarity Checkはこの自己剽窃も検出できるため、過去の論文と高い類似度が示された場合、適切に引用されていないかを確認する必要があります。

具体例:

例えば、ある研究者が5年前に発表した論文の序論や方法論をほぼそのまま再利用して新しい論文を執筆した場合、Similarity Checkが高い類似度を示してしまいます。
この際、過去の論文を適切に引用していない場合は、自己剽窃として問題視される可能性があります。しかし、過去の論文を引用して「この研究は著者の以前の研究に基づく」という明示がされていれば、自己剽窃と見なされることはありません。

6.分野特性の考慮

特定の分野や論文の種類によっては、より高い類似度が許容される場合もあります。

学問分野や論文の種類によっては、論文の一部が他の文献と類似していることが比較的多い場合があります。例えば、法学や医学の分野では、法律の条文や診断基準、医学的な定義などをそのまま引用することが多く、それらは共通の知識として扱われます。このため、これらの部分がSimilarity Checkで高い類似度を示しても、問題とはなりにくいです。

具体例:

法学論文において、ある特定の法律条文をそのまま引用することは一般的です。
同じ法を引用している他の文献と類似するのは当然であり、これが盗用と見なされることはありません。同様に、医学論文においても、疾患の診断基準や治療プロトコルなど、一般的に使用される標準的な説明が多くの文献で一致することがあります。
これらは分野の特性として認識されており、高い類似度が出たとしても問題になることは少ないです。

重要なのは、Similarity Checkの結果を機械的に判断するのではなく、編集者や査読者が文脈を考慮して適切に解釈することです。類似度の数値はあくまでも参考値であり、最終的な判断は人間が行う必要があります。

Similarity Checkはあくまで補助ツールです。結果をそのまま鵜呑みにせず、文脈や内容に基づいて解釈し、研究の質を向上させるために活用することが重要です。

Similarity Checkの効果的な活用方法

論文提出前の事前チェック

Similarity Checkを活用する最も効果的な方法の一つは、論文を提出する前に自らチェックを行うことです。所属している研究所や大学等でSimilarity CheckもしくTurnitin社のiThenticateを利用している場合は、自らチェックを行い無意識のうちに盗用のリスクが生じていないかを確認し、本文の修正や引用を追加するなどを行うことも必要です。

結果の適切な解釈

類似度のパーセンテージはあくまで目安です。

高い類似度が出ても、それが適切な引用によるものであれば問題ありません。逆に、低い類似度でも不適切な引用があれば修正が必要です。文脈をしっかりと理解した上での判断が重要です。

いつのタイミングで「Similarity Check」を行えばよいのでしょうか? 解説します。

出版工程の中でSimilarity Checkを行うタイミング

Similarity Checkは、学術論文の出版プロセスにおいて最も良いのは複数の段階で使用することが良いとされています。以下にその適切なタイミングを解説します。

一般的な学術出版工程

学術出版の一般的な出版工程は以下のように進行します。

STEP

投稿

著者が論文を投稿システムにアップロードします。

STEP

初期チェック
査読者選定

編集事務局・編集担当者にて初期チェックを行い、適切な査読者にアサインします。

STEP

査読プロセス

選定された査読者が論文を評価し、コメントを提供します

STEP

編集長・担当編集委員の採否判断

査読結果に基づいて、編集者が論文の採否や修正の必要性を判断します。

STEP

著者による修正

必要に応じて、著者が査読コメントに基づいて論文を修正します。

STEP

最終確認・受理

修正された論文を編集長・担当編集委員が最終確認し、受理を決定します。

STEP

出版前の準備

受理された論文の校正、レイアウト調整、最終チェックを行います

STEP

出版

論文が正式に出版され、読者がアクセス可能になります。

出版工程でSimilarity Checkを行う最適なタイミング

Similarity Checkを行う最適なタイミングにはいくつかの方法がありますが、一般的には初期スクリーニング段階で実施されます。

また出版段階において複数回行うことで意図しない盗用を未然に防ぐ効果が高まります。初回投稿時や査読プロセス前、出版前の最終段階などでチェックを重ねることで、研究の公正性を確保し、質の高い論文を発表することができます。

初期スクリーニング段階(STEP2で行う)

一般的にはこの段階にてSimilarity Checkを1回のみ 実行している場合が多くあります。

論文が投稿された直後に編集担当者にて行う初期チェック段階でSimilarity Checkを実行することで、明らかな剽窃や不適切な引用を早期に検出し、問題のある論文を早期にフィルタリングすることができます。これにより、査読者や編集者の時間を節約でき、出版プロセスの効率が向上します。

査読プロセス前(STEP3で行う)

査読者に論文を送る前に、編集者がSimilarity Checkの結果を確認することで、潜在的な問題を事前に特定できます。これにより、査読者の負担を軽減し、論文のクオリティを確保することができます。

受理後の最終チェック(STEP6で行う)

論文が受理された後、出版前の最終段階で再度Similarity Checkを行うことも重要です。修正の過程で新たな問題が発生していないか確認し、出版前に最後の確認を行うことができます。

論文提出前の事前チェック

論文提出前に自らSimilarity Checkを活用することは、盗用リスクを未然に防ぐ最も効果的な方法の一つです。研究所や大学でSimilarity CheckやiThenticateが利用可能な場合、自身で事前にチェックを行い、無意識の盗用リスクを確認し、適切に修正や引用の追加を行うことが重要です。

まとめ

Similarity Checkは、学術論文の盗用防止と研究公正の維持に不可欠なツールです。

投稿プロセスの初期スクリーニングや出版前の最終段階で効果的に活用することで、論文の質を高め、学術界全体の信頼性を向上させることができます。しかし、Similarity Checkの結果を機械的に判断するのではなく、文脈や内容を十分に考慮して適切に解釈することが重要です。

参考

iThenticate. (n.d.). Plagiarism detection software: Prevent plagiarism with iThenticate. Retrieved September 25, 2024, from https://www.ithenticate.com/

Crossref. (n.d.). Similarity Check. Retrieved September 25, 2024, from https://www.crossref.org/services/similarity-check/

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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