Crossref Event Dataは、学術界における研究の影響力を可視化するためにCrossrefから提供しているツールです。これにより、学術的な引用、ブログやニュースメディアでの言及、Wikipediaの参照など、さまざまな形での研究成果の広がりを追跡できます。本記事では、Crossref Event Dataの基本的な仕組みから、具体的な利用方法、さらに将来的な展望までを解説します。また、最新のアップデートやデータソースについても詳しく紹介します。

Crossref Event Dataとは何か

Crossrefの基本概要

Crossrefは、学術コミュニティ向けに研究成果の引用を追跡するためのインフラを提供する非営利組織です。CrossrefではDOI(デジタルオブジェクト識別子)を使い、学術論文の一意の識別を可能にするサービスや、学術出版に関する様々なサービスを提供しております。Crossrefが提供しているサービスの一つがCrossref Event Dataです。

Crossrefとは?学術コミュケーションを強力に連携するサービス

Crossrefは、学術出版において不可欠なサービスを提供する国際的な非営利組織です。 DOI管理、盗用防止、研究資金追跡など、多様なツールで研究者や出版社を支援し、学術情報の信頼性とアクセス性を向上させています。

Crossref Event Data概要

Crossref Event Dataは、学術論文や研究成果に関連するブログなどのオンラインでの言及を追跡し、データとして提供するサービスです。

Crossref Event Dataはブログ、ニュース記事、リポジトリ、Wikipediaなどの多様なプラットフォームから、研究がどのように議論・参照されているかを収集しています。このデータはAPIを通じて提供され、研究者や出版社が研究の影響力を把握するために利用できます。

オープンアクセスで誰でも利用可能で、引用数だけでなく、オンラインでの広がりやインパクトを評価するための重要なツールとなっています。

Crossref Event Dataの誕生背景

かつて、学術研究の影響力(インパクト)は主に他の学術論文による引用数を基準に評価されていました。

論文同士の引用関係は、研究の重要性や影響力を定量的に測るための基本的な指標でした。しかし、インターネットの普及とともに、研究成果が発表される場や議論される場が急速に多様化しました。研究内容は、学術誌の範囲を超えて、ブログ、ニュースメディア、ソーシャルメディア、そしてWikipediaのようなオープンなプラットフォームでも言及されるようになりました。

このような環境変化の中で、従来の引用数だけでは研究の真のインパクトを十分に捉えることが難しくなりました。研究がソーシャルメディアでどのように議論されているか、ニュース記事でどのように引用されているか、あるいはWikipediaでどのように参照されているかは、学術界外での影響力を測る上で重要な要素となってきています。

こうした状況に対応するため、Crossrefは「Event Data」という新しいデータ収集の枠組みを導入しました。

Crossref Event Dataは、研究成果が学術界の枠を越えてどのように認識され、広まっているのかを捉えるためのツールです。この仕組みによって、研究が従来の学術論文だけでなく、オンライン上でどのように言及され、議論されているのかを包括的に把握できるようになり、研究のインパクトをより多角的に評価できるようになりました。

Crossref Event Data LIVE

Crossref Event Data LIVE 概要

「Crossref Event Data Live」とは、Crossrefが提供するリアルタイムのデータ追跡ツールであり、学術研究の影響力を様々なオンラインプラットフォームから収集して可視化することができます。

このツールを利用することで、研究者や出版社は、自分の研究がどのように議論され、参照され、社会にどれほどのインパクトを与えているかをライブで把握できます。具体的には、「Crossref Event Data Live」では、研究がニュース記事やブログ、リポジトリ、Wikipedia、そしてその他のオンラインプラットフォームでどのように取り上げられているかをリアルタイムで確認することができます。Crossref Event Data Liveサンプルページ

学術論文やデータセットに関連するDOIが言及されるたびに、その情報がイベントとして記録され、データベースに保存されます。ユーザーは、これらのイベントがどのプラットフォームで発生したか、どのような形で研究が取り上げられたかを逐一確認することができます。

「Crossref Event Data Live」の最大の利点は、研究の影響力がリアルタイムで追跡できる点です。

これにより、学術論文が学術界外でどのように受け入れられ、どのような形で社会に広がっているのかを、迅速かつ効率的に把握できます。例えば、論文がニュースメディアで紹介されたり、Wikipediaの記事に追加されたりする様子を即座に確認することができ、研究者はその動向に応じた適切な対応を取ることが可能です。

Crossref Event Data Liveサンプルページ  大量の情報がリアルタイムに引用されている様子が分かる

Crossref Event Dataの仕組み

データ収集の仕組み

Crossref Event Dataは、さまざまなオンラインプラットフォームからデータを自動的に収集しています。

対象となるのは、DOI付きの研究論文がどのように引用され、言及され、広まっているかを示すデータです。

データソースと取得方法

Crossref Event Dataが収集するデータソースには、次のようなものがあります。

コンテンツの種類説明
引用(Citations)学術論文や研究成果が他の論文や記事で引用されたデータ。
ブログ言及(Blog Mentions)ブログ記事で研究や論文が取り上げられた際の言及データ(例:WordPress.com)。
ニュースメディアの言及(News Mentions)ニュースサイトでの研究や論文の言及・紹介に関するデータ。
Wikipediaでの言及(Wikipedia Mentions)研究や論文がWikipediaで引用された回数や言及された情報。
リポジトリでのダウンロード(Repository Downloads)研究成果がリポジトリでダウンロードされたデータ(例:Dataciteなど)。
ポリシー文書での引用(Policy Citations)政府や組織のポリシー文書での研究引用データ。
オープンアクセスリポジトリのデータ(Open Access Repository Data)オープンアクセスリポジトリでの引用や利用の追跡。
DataCiteの引用(DataCite Citations)DataCiteが提供するDOI付きデータセットの引用やリファレンス。
WordPress.comのブログデータ(WordPress.com Blog Data)WordPress.com上での研究や論文に関するブログ記事の言及やトラッキング。
Crossref Event Dataが収集するデータソース

注記:Twitterでのデータ収集は2023年2月に終了しており、現在は収集対象ではありません。

まとめ

Crossref Event Dataを活用することで、研究の影響力を広範囲にわたって把握できるという大きなメリットがあります。

従来の引用数だけでなく、ブログやニュースメディア、リポジトリ、Wikipediaなど、学術界外での言及も含めて研究の広がりを追跡できます。これにより、研究者は研究の社会的なインパクトを評価しやすくなり、広範なエンゲージメントを視覚化できます。リアルタイムでのデータ追跡も可能で、迅速な対応ができる点も利点です。さらに、APIを活用することで、研究データを他の分析ツールと統合し、効果的なデータ解析や影響力の評価が行えます。オープンアクセスで誰でも利用できるため、出版社や研究機関も容易に活用でき、学術的な評価をより多角的に行うための基盤となります。

参考

Crossref. (n.d.). Event Data. Crossref. Retrieved October 1, 2024, from https://www.crossref.org/services/event-data/

Crossref. (n.d.). Crossref Event Data Live. Crossref. Retrieved October 1, 2024, from https://live.eventdata.crossref.org/live.html

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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