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Grant Linking System (GLS)は、研究資金提供者と研究者を結びつける重要なシステムで、助成金の透明な管理と追跡を可能にします。このシステムにより、助成金がどの研究に使用され、どのような成果が得られたかを簡単に把握でき、研究の信頼性とオープンサイエンスの推進に貢献します。GLSは、研究者と助成金提供者の両方にメリットを提供し、研究資金の使途をより効果的に管理するツールとして注目されています。助成金と研究成果をつなげることで、効率的な研究資金管理が実現します。
目次
- 1. Grant Linking System (GLS)概要
- 1.1. Grant Linking System (GLS)とは
- 1.2. GLSの背景と目的
- 1.3. 研究資金管理における課題とGLSの必要性
- 2. Grant Linking System (GLS)の主な機能
- 2.1. グローバルな一意の識別子(DOI)
- 2.2. 助成金メタデータのオープン共有
- 3. Crossref Grant Linking Systemで管理できる内容
- 4. 資金提供者へのメリット
- 4.1. データの透明性と品質向上
- 4.2. インパクトの評価
- 4.3. 投資の価値向上
- 5. 出版社のメリット
- 5.1. 出版倫理と透明性の向上
- 5.2. 新たなサービスの提供機会
- 5.3. エコシステム統合の強化
- 6. 研究機関へのメリット
- 6.1. データ管理の効率化
- 6.2. 意思決定のエビデンス強化
- 6.3. 資金源の可視化
- 7. 研究者へのメリット
- 7.1. データ入力の削減と再利用性の向上
- 7.2. キャリア支援の強化
- 7.3. 簡素化された報告プロセス
- 8. GLSの運用とプロセス
- 8.1. 助成金メタデータの登録方法
- 8.2. メンバーシップと費用について
- 8.3. 助成金受給者との連携
- 9. Grant Management SystemsとGLSの関係
- 9.1. 助成金管理システムの役割
- 9.2. GLSとの統合事例
- 10. まとめ
- 11. 参考
Grant Linking System (GLS)概要
Grant Linking System (GLS)とは
Grant Linking System(GLS)とは、研究に資金を提供する助成機関が、その資金の使い道や成果を効果的に管理するためのシステムです。
このシステムを使うことで、助成金がどの研究に使われ、その結果がどういった成果につながったのかを簡単に追跡できます。GLSは、助成金の透明性を高め、誰でもそのデータにアクセスできるようにして、オープンサイエンスの発展に寄与しています。
GLSの背景と目的
2017年、Crossref は、研究成果と助成金の関係をより明確に結びつける必要があると判断し、GLSの開発を始めました。Crossrefは、学術情報の信頼性を高めるために、研究論文やデータのDOI(デジタルオブジェクト識別子)を提供する非営利団体です。それまでは、研究者や出版社が助成金提供者の名前を論文などに載せることはありましたが、助成金そのものと研究成果がしっかりとリンクされる仕組みが不足していました。GLSは、この問題を解決し、助成金と研究成果を確実に結びつけるために開発されたシステムです。
研究資金管理における課題とGLSの必要性
研究には多額の資金が必要ですが、その資金がどのように使われたかを管理するのは非常に複雑です。
助成金提供者にとって、資金の使い道を正確に把握し、その成果を確認することが難しかったため、GLSが作られました。GLSは、助成金がどの研究に使われ、その結果どのような成果をもたらしたかをデジタルで追跡できるようにし、研究資金管理を効率化します。
Grant Linking System (GLS)の主な機能
GLSは、助成金の管理や追跡を簡単にするための重要な機能を提供しています。
グローバルな一意の識別子(DOI)
GLSでは、助成金ごとに「DOI(デジタルオブジェクト識別子)」を付与してすべてがユニークな(一意)の番号が発行されています。
この番号を使うことで、助成金がどの研究成果(論文、データセット、コードなど)に関わっているかを簡単に追跡できるようになります。これにより、助成金の使い道が明確になり、資金提供者は自分の資金がどのように使われたかを正確に把握できます。
GLSは、助成金とその成果をデジタルで結びつけます。助成金で支援された研究から生まれた論文やデータがどの助成金によって実現されたのかを確認できるようになるため、助成金提供者や研究者にとって非常に便利なツールです。
助成金メタデータのオープン共有
GLSに登録された助成金の情報は、インターネット上で誰でもアクセスできるように公開されます。
このオープンなデータ共有によって、助成金がどの研究に使われ、どのような成果が得られたのかがわかりやすくなり、研究の透明性が向上します。
Crossref Grant Linking Systemで管理できる内容
Crossref Grant Linking System(GLS)のメタデータスキーマは、助成金に関するあらゆる情報(プロジェクト、調査員、賞の種類など)を一元管理できます。メタデータスキーマで管理している主な情報を表にまとめましたこのような内容をCrossref Grant Linking System(GLS)で管理しております。
項目 | 説明 |
---|---|
Funder Name | 助成機関の名称 |
Funder ID | 助成機関の一意の識別子 |
Grant Number | 助成金の番号 |
Grant Title | 助成金のタイトル |
Grant Description | 助成金の説明 |
Grant Type | 助成金の種類(研究助成、奨学金など) |
Award Amount | 助成金額 |
Award Currency | 助成金の通貨 |
Award Date | 助成金の交付日 |
Principal Investigator | 主任研究者の情報 |
Co-Investigators | 共同研究者の情報 |
Recipient Organization | 受給機関の情報 |
Project Start Date | プロジェクト開始日 |
Project End Date | プロジェクト終了日 |
Related Outputs | 関連する研究成果物(論文、データセットなど) |
Subject Area | 研究分野 |
Funding Program | 資金提供プログラム |
Grant Conditions | 助成条件 |
Grant Status | 助成の状況(進行中、完了など) |
これらの項目を通じて、研究助成金に関する重要な情報を体系的に管理し、助成金と研究成果の関連付けを可能にしています。ただし、実際のスキーマには他の項目も含まれている可能性があり、また全ての項目が必須というわけではありません。
資金提供者へのメリット
データの透明性と品質向上
資金提供者にとって、Crossref Grant Linking System(GLS)はデータの透明性と報告精度を向上させるツールです。
研究プロジェクトの進捗や成果に関するデータが正確かつタイムリーに提供され、資金の利用状況をより効率的に管理できます。
インパクトの評価
Crossref Grant Linking System(GLS)を使用することで、資金提供者は自分たちの投資がどのような成果を生んでいるか、より詳しく把握できます。これにより、政策の遵守状況や成果の評価が向上し、報告にかかる手間が軽減されます。
投資の価値向上
報告サービスへの投資が最大限に活用され、研究インフラやキャリア支援のインパクトをより明確に評価できるようになります。また研究プロジェクトの長期的なリターンやインパクトを追跡でき、戦略的な投資判断が容易になります。
出版社のメリット
出版倫理と透明性の向上
出版社やデータリポジトリなどのコンテンツホストにとって、Crossref Grant Linking System(GLS)は出版倫理と透明性の向上を支援します。
資金提供情報が明示され、研究者と資金提供者間の関係が透明になります。
新たなサービスの提供機会
Crossref Grant Linking System(GLS)を導入することで、出版社は新たなサービスや付加価値を提供でき、プラットフォームの機能が拡張されます。また、データ管理の手間も軽減されます。
エコシステム統合の強化
Crossref Grant Linking System(GLS)により、さまざまなプラットフォームやコンテンツ間の統合が強化され、研究エコシステム全体がより一体化されます。これにより、研究成果の発見が容易になり、研究者と読者双方の体験が向上します。
研究機関へのメリット
データ管理の効率化
研究機関にとって、Crossref Grant Linking System(GLS)はデータ収集と報告にかかる管理負担を大幅に削減します。
資金提供者とのやり取りがシンプルになり、研究プロジェクトの進捗管理が効率化されます。
意思決定のエビデンス強化
Crossref Grant Linking System(GLS)を活用することで、研究機関はキャリア支援やプロジェクトの成果に関するデータをより簡単に収集でき、戦略的な意思決定に役立てることができます。
資金源の可視化
Crossref Grant Linking System(GLS)を通じて、研究機関は資金提供者のポートフォリオを明確に把握でき、今後の助成金獲得戦略やプロジェクト計画に役立つ情報を得ることができます。また研究機関は報告作業の手間が削減され、データの整合性と質が向上します。これにより、研究成果の評価や政策遵守の確認が効率的に行えます。
研究者へのメリット
データ入力の削減と再利用性の向上
研究者にとって、Crossref Grant Linking System(GLS)は申請や報告時のデータ入力を削減し、既存データを再利用できるため、効率的な研究活動が可能になります。
キャリア支援の強化
Crossref Grant Linking System(GLS)は、研究者のキャリア支援にも貢献します。研究成果と資金提供の関連性が明確になり、キャリアの進展が可視化されることで、研究者自身のインパクトが強化されます。
簡素化された報告プロセス
報告プロセスも簡素化され、データの照合が効率的になり、研究者が資金提供者に対して成果を迅速に報告できるようになります。
GLSの運用とプロセス
GLSを利用するためには、いくつかのステップがあります。
助成金メタデータの登録方法
助成金提供者がGLSを利用するには、まずCrossrefのメンバーとして登録する必要があります。メンバーになると、助成金ごとに一意のDOIが発行され、その助成金に関する情報をCrossrefに登録します。登録する情報には、助成金の金額、助成金を受けた研究プロジェクトの詳細、研究者の名前などが含まれます。
メンバーシップと費用について
GLSに参加するためには、Crossrefのメンバーシップを取得する必要があります。費用は、助成機関の規模や助成金の数によって異なり、助成金を登録するごとに料金がかかります。これにより、資金提供者は自分たちの助成金がどのように使われたかを管理しやすくなります。
助成金受給者との連携
助成金を受け取った研究者は、研究成果を発表する際に、その成果がどの助成金によって支えられたのかを示すため、GLSで発行されたDOIを使用します。
これにより、助成金提供者と研究者の間の連携が強化され、助成金の貢献がはっきりと示されます。
Grant Management SystemsとGLSの関係
助成金管理システムの役割
多くの助成機関は、助成金管理システムを使って研究資金を管理しています。GLSは、これらのシステムと連携して助成金の管理を効率化し、助成金と研究成果を簡単にリンクさせることができます。これにより、資金提供者と研究者の両方にとって管理が容易になります。
GLSとの統合事例
一部の助成金管理システムはすでにGLSと統合されており、ヨーロッパのWellcomeやPMCといった機関がCrossrefのメタデータを利用して助成金情報を管理しています。このような統合によって、助成金と研究成果の追跡がより正確かつ効率的に行われています。
まとめ
Grant Linking System(GLS) は、助成金提供者や研究者にとって、資金の流れや成果を透明にし、管理を効率化するための重要なシステムです。
GLSを活用することで、助成金の使い道が明確になり、研究成果とのリンクが簡単に追跡できるようになります。さらに、オープンサイエンスの推進にも貢献しており、研究の透明性と信頼性を高める役割を果たしています。
参考
Crossref. (n.d.). Grant Linking System. Crossref. https://www.crossref.org/services/grant-linking-system/
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。