Wikidataは、データを構造化し、一元的に管理するためのオープンな知識ベースです。その中で、「エンティティID」は、個々のデータ項目を一意に識別するために重要な役割を果たしています。このエンティティIDは、他のデータベースやWebサービスと連携し、情報の統合や検索を効率化するための鍵となります。本記事では、エンティティIDの仕組みと、J-STAGEやWikipediaとの連携について、具体例を交えて解説します。

Wikidataとは何か?

Wikidataの基本的な役割

Wikidataは、2012年にWikipediaを管理している、ウィキメディア財団が開始したプロジェクトであり、構造化されたデータを蓄積し、共有するためのオープンなデータベースです。

Wikipediaや他のウィキメディアプロジェクトと連携しており、さまざまな言語で利用できるデータベースとして活用されています。Wikidataの特徴は、データが誰でも自由に編集でき、J-STAGEをはじめ多くの異なるプロジェクトで活用される点です。

WikipediaとWikidataの組織的関係性

WikipediaとWikidataの組織的関係性は以下のように説明できます。

WikipediaとWikidataとの関係性

  • 共通の親組織:両プロジェクトともウィキメディア財団が運営しており、同じ組織的傘下にあります。
  • 相互補完的な役割:Wikidataは、Wikipediaの情報構造を補完する役割を果たしています。特に、Wikipediaの言語間リンクや基本的なデータの管理をWikidataが担当することで、Wikipediaの運営効率が向上しています。
  • データの一元管理:Wikidataは、Wikipedia各言語版で共通して使用される情報を集中的に管理しています。これにより、Wikipediaの各言語版間での一貫性が保たれています。
  • 識別子としての機能:Wikidataは、Wikipediaの項目に対して言語に依存していないユニークな識別子を提供し、管理しているため、曖昧さを解消する役割を果たしています。

Wikidataの活用目的

Wikidataのデータは、Wikipedia以外でも誰でも利用できるオープンデータとして提供されており、研究者や開発者が必要なデータを取得し、様々なプロジェクトや研究に応用しています。特に、Wikipediaの記事で使用される基本データや、他のデータベースとの連携に活用されることが多く、グローバルなデータ共有基盤として機能しています。

WikidataエンティティIDの仕組みと種類

WikidataエンティティIDの基本構造

WikidataのエンティティIDは、データ項目をユニークに一意に識別するための識別子です。WikidataエンティティIDは、次のように3つのタイプに分類されます。

エンティティIDの基本構造

  • 項目(Item)のID
    「Q」に続く数字で表され、特定のデータ項目を指します。例えば、「Q42」はイギリスの作家ダグラス・アダムスに対応しています。
    例: http://www.wikidata.org/entity/Q42
  • プロパティ(Property)のID
    「P」に続く数字で、特定の属性を表します。例えば、「P31」は「インスタンス(instance of)」を意味し、あるデータ項目が何であるかを示します。
    例: http://www.wikidata.org/entity/P31
  • 語彙素(Lexeme)のID
    「L」に続く数字で、特定の単語やフレーズに関連する情報を表します。語彙素IDは主に言語学的なデータを扱う際に使用されます。

WikidataエンティティIDの特徴

WikidataエンティティIDは、一度付与されると永続的にその項目を一意に識別し続けるため、データの一貫性が保たれます。

また、エンティティIDは多言語に対応しており、各エンティティは異なる言語でラベルや説明を持つことができますが、ID自体は共通のものです。

これにより、国際的なデータの整合性が確保され、Wikidataを利用するプロジェクト間でスムーズな連携が可能になります。例えばWikidataでは大学名、研究所名称などはWikidataエンティティIDなどでユニークで一意に識別子が付与されております。

WikidataとWikipediaの記事とデータとの関係

WikipediaとWikidataの連携

WikidataとWikipediaは強力に連携されながら構成されております。

Wikipediaの記事では、Wikidataのデータがしばしば使用され、インフォボックス(著者情報等)やリスト形式の情報がWikidataから自動的に取得されることがあります。

例えば、イギリスの著名なSF作家ダグラス・アダムスを表すWikidataエンティティIDの記事では、彼の生年月日や著作リストがWikidataのエンティティID「Q42」と連携しており、データが自動的に表示されています。

この連携により、一度だダクラス・アダムスのWikidataで情報が更新されると、そのデータがすべての言語版のWikipediaに自動的に反映されるため、手動で情報を更新する手間が大幅に軽減されます。

また、複数言語間で情報の一貫性が確保され、誤りや不整合が減少します。

WikidataエンティティIDの具体例:Q42(ダグラス・アダムス)

「Q42」は、作家ダグラス・アダムスを表すWikidataエンティティIDです。Wikidataでは、彼に関連するすべての情報(生年月日、代表作、関連イベントなど)がこのIDに基づいて一元管理されています。

このIDは、世界中の異なる言語版のWikipediaで利用され、共通のデータソースとして機能します。

これにより、Wikipediaのすべての言語版で一貫した最新の情報が提供されるようになっています。

J-STAGEにおけるWikidataエンティティIDの活用

J-STAGEとは

J-STAGEは、日本の学術文献を提供するオンラインプラットフォームで、研究成果を世界中に公開しています。

J-STAGEでは、学術雑誌や会議録、報告書などが掲載され、広範な学術情報が提供されています。このプラットフォームは、日本の研究者が自身の研究成果を国際的に発信するための重要な役割を担っています。

助成機関情報とWikidataエンティティIDの利用

J-STAGEでは、助成機関や助成事業の識別子としてWikidataのエンティティIDを利用することが可能です。

例えば、特定の助成機関が提供する研究資金に関連する情報を登録する際、WikidataのエンティティIDを他の識別子(Crossref Funder ID、GRID ID、ISNI、ROR IDなど)と並べて管理することができます。

これにより、同じ助成機関に対して複数の識別子を同時に登録し、データの一貫性と透明性を保ちながら、さまざまな識別システムと柔軟に連携することができます。

この仕組みによって、J-STAGEは助成機関や助成事業に関する情報を一元的に管理し、研究成果と資金提供機関との関連付けを明確に行うことができます。これにより、学術情報の透明性と追跡可能性が向上し、研究コミュニティにとっての利便性も高まります。

WikidataエンティティIDの利便性と活用

URIとしての利用

WikidataのエンティティIDは、データへのアクセスを容易にするためのURI(Uniform Resource Identifier)としても利用されます。URIは、特定のデータ項目に直接アクセスするためのアドレスとして機能し、例えばダグラス・アダムスのエンティティID「Q42」のURIは以下のようになります。

http://www.wikidata.org/entity/Q42

このURIを使用することで、アプリケーションやウェブサービスが特定のデータ項目に容易にアクセスし、必要な情報を取得できます。これにより、プログラム的なデータ取得や、自動化されたデータ処理が可能になります。

まとめ

WikidataエンティティIDは、データの統合と標準化を促進する重要なツールです。

特に、項目ID、プロパティID、語彙素IDというシンプルで効果的な構造により、データの一貫性が保たれ、他のシステムとの連携が容易になります。WikidataとWikipediaの連携により、エンティティIDを活用して、複数の言語間で一貫したデータ提供が可能となっています。

また、J-STAGEにおけるエンティティIDの活用によって、学術情報の透明性と追跡可能性が向上し、研究資金提供機関と研究成果の関連付けがより明確になっています。今後、WikidataエンティティIDはますます多くの分野で活用されることが期待されます。

参考

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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