掲載記事数 |
---|
106記事 |
学術出版や研究データの管理において、組織の識別は極めて重要です。その中でも、Ringgold IDは、組織を一意に識別し、データの重複を排除するための強力なツールです。本記事では、Ringgold IDがどのような役割を果たし、どのような利点をもたらすのか、具体的な導入事例とともに詳しく説明します。
目次
- 1. Ringgold IDとは何か
- 1.1. Ringgold IDの概要
- 1.2. Ringgold Inc.とCCC (Copyright Clearance Center)
- 2. Ringgold IDの利点
- 2.1. 組織データの質向上と一貫性
- 2.2. データの相互運用性と他の識別子(ISNI IDなど)との連携
- 2.3. 組織階層の可視化による市場セグメンテーションと分析
- 2.4. 研究活動、資金調達、著者所属情報のトラッキング
- 3. Ringgold IDの活用方法とサービス
- 3.1. Ringgold Identify Databaseとは
- 3.2. オーサリング、ファンディング、研究利用者の組織データ
- 4. Ringgold IDの導入事例と成功事例
- 4.1. アメリカ心理学会(APA)のRinggold導入事例
- 4.2. 神経科学協会(SfN)における標準化とデータ拡充
- 4.3. 工学技術研究所(IET)のInspecツールによる研究成果分析
- 5. Ringgold IDとRORとの違い
- 5.1. 今後の展望
- 6. Ringgold IDの今後の展望
- 6.1. データ駆動型意思決定の重要性
- 6.2. オープンアクセスとメタデータ管理の進化
- 6.3. 学術コミュニケーションにおける組織識別の未来
- 7. 結論
- 8. 参考
Ringgold IDとは何か
Ringgold IDの概要
Ringgold IDとは、学術出版や研究分野で使用される組織の識別子です。このIDは、Persistent Identifier(PID、永続識別子)として機能し、組織間の混同を防ぎ、データの管理を効率化します。
Ringgold IDは、出版業界のサプライチェーンにおける組織を一意に識別するための永続的な識別子です。
Ringgold ID、主な特徴は以下の通りです:
- 目的: 学術出版や研究機関を中心に、組織データを明確に区別し、重複を避けるために使用されます。
- 管理: Ringgold Inc.という企業が開発・管理しています。
- データベース: Ringgold's Identify Databaseには60万以上の組織記録が含まれており、各組織に豊富なメタデータと階層構造情報が付与されています。
- 利用: 出版社、サービスプロバイダー、資金提供機関など、約80の主要組織が使用しています。
- 相互運用性: ISNIなど他の外部識別子とのマッピングが可能で、幅広い相互運用性を提供します。
Ringgold Inc.とCCC (Copyright Clearance Center)
Ringgold Inc.はCCCに買収されました。
Ringgold Inc.CCCとの関係性:
- CCCはRinggold Inc.を2022年5月に買収し、現在Ringgold IDシステムを所有・運営しています。
- CCCは「Ringgold Solutions」として、Ringgold IDとそれに関連するサービスを提供しています。
- この買収により、CCCは学術出版や研究分野における組織データの管理と標準化において重要な役割を果たしています。
Ringgold IDは、特に学術出版業界において組織データの標準化と品質向上に貢献しており、CCCの傘下に入ることで、より広範なサービスと統合が可能になっています。
ただし、最近ではORCIDなどの主要プラットフォームがROR (Research Organization Registry)への移行を進めており、Ringgold IDの長期的な位置づけには変化が生じる可能性があります。
Ringgold IDの利点
Ringgold IDを導入することで、組織データの質が向上し、データの正確性と一貫性が保たれます。これにより、研究や出版のワークフローが効率化され、組織の相互運用性も向上します。
組織データの質向上と一貫性
Ringgold IDは、データの正確性を高めるために、組織の標準化と重複排除を行います。
この結果、企業や学術機関が管理する組織データの信頼性が向上し、意思決定に役立つ高品質なデータを提供します。
データの相互運用性と他の識別子(ISNI IDなど)との連携
Ringgold IDは、ISNI ID(ISO 27729)など他の識別子とも連携しており、異なるデータベース間での情報のやり取りや統合を容易にします。この相互運用性により、さまざまなシステムやサービスで効率的なデータ交換が可能となります。
組織階層の可視化による市場セグメンテーションと分析
Ringgold IDを利用することで、企業や学術機関は組織の階層構造を可視化し、より深い市場セグメンテーションやデータ分析が可能になります。
これにより、セールスの機会を的確に見極めることができ、市場へのアプローチを最適化できます。
研究活動、資金調達、著者所属情報のトラッキング
Ringgold IDを使用することで、研究活動や資金調達、著者の所属情報を正確に追跡できます。これにより、資金提供者の要件に準拠した報告が可能となり、研究の進捗を正確に把握できます。
Ringgold IDの活用方法とサービス
Ringgold IDは、さまざまなデータ管理サービスを提供しています。これにより、組織の識別データを最大限に活用し、ビジネス判断の精度を向上させることが可能です。
Ringgold Identify Databaseとは
Ringgold Identify Databaseは、学術出版物や研究に関連する組織のデータを一元管理するためのデータベースです。
このデータベースは、研究者、資金提供者、出版社、サービスプロバイダーなどの組織を正確に識別し、効率的なデータ管理を支援します。
オーサリング、ファンディング、研究利用者の組織データ
Ringgold Identify Databaseには、学術コミュニケーションの全体に関わる組織のデータが含まれており、著者の所属機関や資金提供者、研究利用者を正確に識別することが可能です。
Ringgold IDの導入事例と成功事例
Ringgold IDは、多くの学術機関や出版社で採用され、その有効性が実証されています。以下では、具体的な導入事例について説明します。
アメリカ心理学会(APA)のRinggold導入事例
アメリカ心理学会(APA)は、Ringgold IDを導入することで、顧客データの一元管理を実現しました。
これにより、ユーザーはAPAの顧客情報を包括的に把握できるようになり、データの可視化と分析が飛躍的に向上しました。
神経科学協会(SfN)における標準化とデータ拡充
神経科学協会(SfN)は、Ringgold Identify Databaseを活用して、メンバーと関係組織のデータを標準化し、データの一貫性を確保しました。
これにより、会員情報の統合と分析が容易になり、より精緻なマーケティング戦略を策定することが可能となりました。
工学技術研究所(IET)のInspecツールによる研究成果分析
工学技術研究所(IET)のInspec Analyticsツールは、Ringgold IDを使用して研究成果と組織データを標準化し、分析の精度を高めています。
これにより、ユーザーはグローバルな研究動向や著者の所属情報を的確に把握できるようになりました。
Ringgold IDとRORとの違い
特徴 | Ringgold ID | ROR (Research Organization Registry) |
---|---|---|
管理団体 | Ringgold Inc. | Crossref, DataCite, California Digital Library |
オープン性 | 独自識別子 | オープンで無料 |
対象範囲 | 出版関連組織中心 | 研究機関全般 |
データ更新 | 有料サービス | コミュニティ主導 |
相互運用性 | 限定的 | 高い |
ライセンス | 商用 | CC0 (パブリックドメイン) |
今後の展望
Ringgold IDとROR(Research Organization Registry)との比較では、RORのほうが今後より広く普及する可能性が高いと考えられます。
以下の理由がその理由です:
RORの広がりの可能性:
1. オープン性
RORはオープンで無料のサービスであり、誰でも自由に利用できます。
このオープン性により、多様な研究機関や学術コミュニティでの採用が進みやすくなっています。一方、Ringgold IDは商用のライセンスを持ち、利用には費用が発生するため、普及に限界があります。
2. コミュニティ主導
RORは、Crossref、DataCite、California Digital Libraryといった非営利組織によって管理されており、コミュニティ主導で運営されています。
研究者や学術機関のニーズに柔軟に対応できる体制が整っており、透明性と柔軟性が高い点が強みです。
3. 相互運用性
RORは高い相互運用性を持ち、他のシステムやデータベースとの連携が容易です。
研究データのやり取りや統合が必要な現代の学術エコシステムにおいて、RORは重要な役割を果たすでしょう。特に、CrossrefやDataCiteなどとの連携は、学術出版や研究データ管理において大きな強みです。
4. 主要組織のサポート
CrossrefやDataCiteといった、学術出版や研究データ管理で重要な役割を果たす組織がRORを支持しており、これがさらに普及を後押ししています。
また、ORCIDがRinggold IDのサポートを終了し、RORへの移行を推奨していることも、RORの普及を加速させる要因となっています。
5. データの信頼性
RORはコミュニティ主導の更新体制を採用しており、データは定期的に更新されています。
これにより、最新の組織情報が維持され、データの信頼性が高まります。一方、Ringgold IDは更新が有料サービスに依存しており、最新性の確保が課題となる可能性があります。
Ringgold IDは既存のユーザーベースを持ち、出版関連組織に特化したデータ提供の利点がありますが、長期的にはその使用が減少する可能性があります。
学術コミュニティは全体がより開かれた、相互運用可能な識別子システムを求める中で、RORが今後広く採用される見込みです。
Ringgold IDの今後の展望
Ringgold IDは、長年にわたって学術出版や研究分野での組織識別の標準的なツールとして使用されてきましたが、今後はその役割に変化が生じる可能性があります。
特に、オープンでコミュニティ主導の組織識別子であるROR(Research Organization Registry)の台頭により、組織識別の標準としての立場が揺らぐ可能性があります。
データ駆動型意思決定の重要性
データを活用した意思決定が、現代のビジネスや学術分野でますます重要になっていることは間違いありません。
Ringgold IDはこれまで、正確かつ豊富な組織データを提供することで、出版社や学術機関のデータ駆動型意思決定を支援してきました。しかし、RORは無料でオープンなデータを提供し、幅広い相互運用性を持っているため、より多くの研究機関や企業がRORに移行する可能性があります。
このため、Ringgold IDは特定の分野や利用者層に限定される傾向が強まるかもしれません。
オープンアクセスとメタデータ管理の進化
オープンアクセス(OA)の進展とともに、メタデータ管理の重要性が高まっています。
Ringgold IDは、出版関連の組織データ管理を効率化し、出版社や学術機関がメタデータを効果的に活用できるようサポートしてきました。しかし、RORはオープンであり、CC0ライセンスの下で誰でも無料で利用できるため、オープンアクセスの精神により適合しています。
これにより、RORは今後、特にOAに関与する研究者や機関にとって、より魅力的な選択肢となる可能性があります。
学術コミュニケーションにおける組織識別の未来
今後、学術コミュニケーションにおいて組織識別の役割はますます重要になります。
Ringgold IDは、長年にわたって学術出版における重要なツールとして使用されてきましたが、RORのようなオープンで相互運用性の高い識別子が登場したことで、今後の普及が限定的になるかもしれません。
特に、ORCIDがRinggold IDのサポートを終了し、RORへの移行を進めている点は、学術界全体がよりオープンで広範な識別子にシフトする兆候を示しています。
結論
Ringgold IDは、出版関連組織に特化した成熟したデータを持ち、既存のユーザーベースにとっては引き続き価値のあるツールです。
しかし、研究分野全体がオープンアクセスや相互運用性を重視する傾向にあるため、今後はRORがより広く普及し、Ringgold IDの使用は徐々に減少する可能性があります。
学術コミュニケーションにおける組織識別の未来は、よりオープンで柔軟なソリューションに向かって進むことが予測されます。
参考
- Ringgold Inc. (n.d.). Ringgold solutions for scholarly communications. Retrieved October 5, 2024, from https://www.ringgold.com
- Copyright Clearance Center (CCC). (n.d.). Ringgold Identify database. Retrieved October 5, 2024, from https://www.copyright.com
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。