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サンフランシスコ宣言(DORA)は、学術研究の評価方法を見直し、ジャーナルインパクトファクター(JIF)に依存しない公正な評価を推進する国際的な取り組みです。2013年に発表されて以来、DORAは世界中の研究者や学術機関、資金提供者、出版者によって支持されており、学術界全体での評価改革を目指しています。研究内容そのものを評価することで、研究者の真の価値を見出し、持続的な学術発展を実現するための基盤を築くことを目指します。
目次
- 1. サンフランシスコ宣言(DORA)の概要と誕生の背景
- 1.1. DORAの起源と成り立ち
- 1.2. 研究評価における課題の認識とDORAの役割
- 1.3. 宣言の普及と国際的な広がり
- 2. DORAのミッションと主な目的
- 2.1. 研究評価の改善に向けたDORAのミッション
- 2.2. DORAが掲げる4つの目標
- 3. DORAのアプローチと活動
- 3.1. リソース開発とガイドライン提供
- 3.2. 他組織との連携
- 3.3. アドバイザリーおよび指導活動
- 3.4. 各種会合やワークショップの開催
- 4. DORAの具体的な成果と影響
- 4.1. 重要な年次イベントと会合の概要
- 4.2. 各種リソースとツールの提供
- 5. 研究評価改革におけるDORAの課題と展望
- 5.1. 評価基準の多様化とインパクト指標の再検討
- 6. まとめ
サンフランシスコ宣言(DORA)の概要と誕生の背景
DORAの起源と成り立ち
サンフランシスコ宣言(DORA:Declaration on Research Assessment)は、2012年にアメリカ細胞生物学会(American Society for Cell Biology)の年次総会で発案され、翌2013年に正式に公表された研究評価の改善に関する国際的な宣言です。
この宣言は、研究成果の評価方法の改善を目指しており、ジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor, JIF)のみに依存した評価を避け、研究の質や影響を多面的に捉えることを提唱しています。
DORAは当初、生命科学分野の研究者を中心に発足しましたが、次第に全学問分野や関連する利害関係者(研究資金提供者、学術機関、出版者、学会)に広がりを見せ、国際的な支持を得るようになりました。
研究評価における課題の認識とDORAの役割
DORAが発足した背景には、研究評価に対する複数の問題認識が存在しました。
特に、ジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor, JIF)に依存する評価は、研究の質を必ずしも正確に反映しないという問題点が指摘されてきました。
JIFは、特定の分野に偏った尺度であり、さらに一部の論文が過剰に引用されることにより数値が歪められることもあります。こうした評価の偏りが研究者のキャリア形成や研究資金の配分に悪影響を及ぼしているとして、DORAは研究の本質的価値を正当に評価するための新たな指針を提供する役割を果たしています。
宣言の普及と国際的な広がり
DORAは、研究者のみならず学術機関や資金提供者、出版社などに支持され、国際的な広がりを見せています。
2013年の発表以来、10年以上にわたって署名者を増やし続け、現在では全世界で数千の機関と数万人以上の個人がDORAに署名し、国内では東京大学や、学術団体など多くの団体がDORAに署名しております。
DORAの世界的普及は、単なる評価方法の改善を超えて、学術界全体の文化変革を促すものとしても注目されています。
DORAのミッションと主な目的
研究評価の改善に向けたDORAのミッション
DORAのミッションは、世界中のすべての学術分野で実践可能かつ確固たる研究評価のアプローチを推進することです。
このミッションのもと、DORAは各組織が個々の研究の質と影響を公平かつ包括的に評価できる体制を整えるためのガイドラインを提供しています。
DORAは研究者や関係者に対し、研究の内容そのものを重視した評価を行うように促しています。
DORAが掲げる4つの目標
DORAは、そのミッションを達成するために4つの具体的な目標を掲げています。
DORAの4つの目標
- 意識向上:新たな評価手法や責任あるメトリクスの利用を呼びかけ、学術界の透明性と一貫性を促進すること。
- 実施の促進:研究者の採用や昇進、資金提供における評価の基準や手法の見直しを支援すること。
- 変革の促進:学問分野や地域を超えた評価改革の普及を図ること。
- 公平性の向上: 学術界における構造的な不平等に対処し、幅広い研究者層が評価に関与できる体制を整えること。
DORAのアプローチと活動
リソース開発とガイドライン提供
DORAは、評価改革のためのリソースやガイドラインの開発と公開にも積極的に取り組んでいます。
これには、評価改革に取り組む研究者や学術機関のためのスライドやケーススタディの提供が含まれます。これらのリソースは、各機関や研究者がローカルレベルで改革を推進する際の道しるべとして役立ち、DORAの理念を現場で実践するための支援材料となっています。
また、DORAは「プロジェクトTARA」という取り組みを通じて、評価基準の改善と多様化を目指す具体的な手法を提案しています。
このプロジェクトTARA(Tools to Advance Research Assessment)とは、研究評価において従来の指標にとらわれず、質的な評価や公平性を重視した新たなフレームワークを提供するものです。
TARAは、研究者が公平に評価されるためのツールやガイドラインを開発・提供するだけでなく、学術機関や資金提供者が公正かつ包括的な評価基準を採用するための支援も行っています。このように、TARAはDORAの理念に基づく評価改革を実現するための重要な手段となっています。
他組織との連携
DORAは、評価改革を推進するために他の学術団体や関係組織と密接な連携を図っています。
これにより、学術界全体で一貫した改革が行えるよう、各組織が相互に支援し合う体制が整備されています。特に、他の団体との連携を通じて、評価基準の多様化や透明性の向上、そして公平な評価制度の確立が促進され、DORAの目指す多面的かつ公正な評価基準が学術界全体で実現しやすくなっています。
アドバイザリーおよび指導活動
DORAは、学術機関や資金提供者に対して、評価方針の見直しや改善に関する助言を提供しています。
DORAのガイドラインに基づき、各機関や組織が研究の内容そのものを重視した公平で効果的な評価基準を採用するためのサポートを行っています。このようなアドバイザリー活動を通じて、DORAは評価改革の実践的な支援を提供し、学術界の各組織が持続可能な評価基準の確立に向けて前進できるよう支援しています。
各種会合やワークショップの開催
DORAは、ワークショップや会合を定期的に開催し、学術界の関係者が評価改革に関する意見を交わすための場を提供しています。
こうした会合やワークショップでは、評価改革に関する最新情報やベストプラクティスが共有され、実際に改革を推進するための実践的な支援が行われています。さらに、評価改革の成果や課題について議論し、関係者間の協力体制を強化することで、学術界全体で変革の機運を高める役割を果たしています
DORAの具体的な成果と影響
重要な年次イベントと会合の概要
DORAは、毎年、各国の学術機関や資金提供者との協力を通じて様々なイベントや会合を開催しています。
これらのイベントでは、評価改革に関する最新の知見や課題が共有され、参加者が実践的なアイデアを得られる場としても機能しています。特に、2023年の10周年記念イベントは多くの参加者を集め、DORAの意義を再認識する契機となりました。
各種リソースとツールの提供
DORAは、学術評価の改善に役立つリソースやツールを数多く提供しています。
例えば、「SPACEルーブリック」は、DORAとイリノイ工科大学デザイン研究所が共同開発した、学術評価を改善するための分析ツールです。
5つのカテゴリー(奨学金の基準、プロセスの仕組みとポリシー、アカウンタビリティ、機関内の文化、評価とフィードバック)に基づき、学術機関が評価基準を適切に整備し、成功を達成するための現状や課題を把握するために使用されます。
このルーブリックは、評価改革の成熟度を測る「ベースラインの確立」と、既存の評価方法が介入にどのような影響を与えたかを分析する「遡及的分析」の両方に活用できます。また、翻訳されたカタロニア語やスペイン語版も提供され、学術界の幅広いユーザーがアクセス可能です。
研究評価改革におけるDORAの課題と展望
評価基準の多様化とインパクト指標の再検討
DORAは、従来のジャーナルインパクトファクターに代わる評価基準の多様化を進めています。
しかし、評価基準の多様化には、各学術分野での統一的な指標の確立が難しいという課題もあります。今後は、質的なインパクトや実社会での影響も考慮した新しい指標の開発が期待されています。
まとめ
サンフランシスコ宣言(DORA)は、学術研究の評価方法を抜本的に見直すための革新的な取り組みとして注目を集めています。
JIFに依存しない多面的な評価基準を提唱し、世界中の学術機関や研究者に影響を与え続けています。DORAは今後も、透明性と公平性を重視した評価改革を推進し、学術界全体での変革を目指す重要な存在であり続けます。
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。