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利益相反(COI:Conflict of Interest)は、学術研究や論文執筆において、著者と外部組織との間に存在する利益や関係が研究内容やその解釈に影響を与える可能性がある状況を指します。利益相反の適切な管理は、研究の透明性と信頼性を確保する上で重要です。本記事では、利益相反の定義や判断基準、大学や研究における具体的な事例、さらには「ICMJE開示フォーム」の解説を含め、利益相反を理解するための情報を詳しく紹介します。
目次
- 1. 利益相反(COI)とは
- 1.1. 利益相反の定義とその重要性
- 1.2. 利益相反の英語表現とわかりやすい説明
- 1.3. 研究倫理における利益相反の意義
- 2. 研究における利益相反(COI)の開示方法
- 2.1. 研究発表での利益相反の適切な開示方法
- 2.1.1. 一般的な利益相反のスライドの書き方
- 2.1.1.1. 利益相反なしの場合
- 2.1.1.2. 利益相反なしの場合
- 3. 論文における利益相反(COI)の書き方と報告
- 3.1. 論文における利益相反(COI)の報告内容
- 3.2. ICMJEのCOI開示フォームの内容
- 3.3. 論文における利益相反の書き方
- 3.3.1. 論文の中での記載場所
- 3.3.2. 論文の利益相反(COI)の記載例
- 4. 利益相反の報告期間と対象範囲
- 4.1. 利益相反を報告する期間
- 4.1.1. 対象期間の基本的な考え方
- 4.1.2. 論文や学術大会での発表における具体的な期間
- 4.1.2.1. 注意点
- 4.2. 利益相反はいくらからが対象となるのか?
- 5. 謝辞と利益相反の違い
- 5.1. 謝辞と利益相反の違い
- 6. まとめ
- 6.1. 学術研究における利益相反(COI)の重要性の再確認
- 6.2. 正しい利益相反管理による信頼性向上の意義
- 7. 参考
利益相反(COI)とは
利益相反の定義とその重要性
利益相反(COI:Conflict of Interest)とは、研究者や著者が第三者との利害関係を持つことにより、研究の内容や結果に影響を与える可能性がある状況を指します。
利益相反を簡単に言うと...
利益相反(COI)は、研究者や著者が企業や組織から支援を受けていることで、その影響が研究内容に偏りをもたらす可能性がある状況です。
例えば、特定の企業から資金提供を受けると、その企業に有利な結果が出るように研究が偏るリスクがあります。そのため、研究の客観性と信頼性を保つために、関係性を開示することが必要です。学術の透明性と公正さを守るため、利益相反の開示は不可欠です。
利益相反の英語表現とわかりやすい説明
利益相反は英語で「Conflict of Interest」と表現され、「COI」と略されます。
「Interest」は一般的な訳の「興味、関心、面白さ」という意味だけでなく利害関係が発生する状況では「利益,利子」などの意味にも訳されます。この場合の「Conflict of Interest」の「Interest」は「利益、利害関係」と訳されます。また、「Conflict」は思想、利害などの衝突、つまり相反することを意味しています。
これらを組み合わせた「Conflict of Interest」は、直訳すると「利益の対立」や「利害の衝突」となり、研究者や著者の利害関係が研究の客観性や独立性と競合する状況を表します。
研究倫理における利益相反の意義
利益相反の管理は研究倫理の基本とされ、研究者が自身の利益が研究内容に影響を与えないようにすることが求められます。
特に、研究倫理ガイドラインに沿った透明性の確保が重要であり、利害関係がある場合は開示することで、偏りや信頼性の低下を防止できます。
また、開示するか迷った場合には、透明性を優先し、開示することが望ましいとされています。
研究における利益相反(COI)の開示方法
研究発表での利益相反の適切な開示方法
研究発表では、発表の最初に利益相反の有無を示すことが一般的です。
発表スライドや資料の冒頭に以下のような「利益相反の開示」セクションを設け、関係の有無を明示します。学会や研究会の規定に従うことが重要です。
一般的な利益相反のスライドの書き方
利益相反なしの場合
利益相反がない場合には、「本発表に関連して開示すべきCOI関係にある企業等はありません。」と記載することが一般的です。このように明示することで、発表内容に利益相反がないことを伝えることができます。
利益相反なしの場合
利益相反がある場合、「演題発表に関連し、筆頭及び共同発表者が開示すべきCOI関係にある企業」として、株保有、講演料、原稿料、寄付金、寄付講座など細かく記載することが一般的な書き方です。開示するか迷った場合には、透明性を優先し、開示することが望ましいとされていますが、発表する学術大会や、研究発表会の主催者に確認することが必要です。
COIでどれを申告すればよいか迷った場合は、ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)のCOI開示フォームの内容が参考になります。
論文における利益相反(COI)の書き方と報告
論文における利益相反(COI)の報告内容
論文において、利益相反が存在する場合は、その内容を正確に開示し、透明性を保つことが求められます。
特に医学系論文では、利益相反の適切な報告が世界的に求められています。ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)は、医学系の学術出版に関するガイドラインを提供しており、利益相反を報告するための標準的なフォームも提供しています。このICMJEの開示フォームは、医学系を中心に世界中の学術出版で利用されています。
以下では、ICMJE開示フォームの内容を紹介し、どの項目が報告対象となるのかを明確に示します。利益相反の報告が研究の信頼性や公正さを保つための重要な要素であることを理解するために役立ててください。
ICMJEのCOI開示フォームの内容
ICMJEのCOI開示フォームは、利益相反の具体的な内容を細かく報告するための項目で構成されています。それぞれの項目について、以下の表にて詳細を解説します。
項目名 | 内容と記載方法 | 事例 |
---|---|---|
本原稿に対するすべての支援 | 原稿作成に関連する全ての支援(研究費、資料提供、論文掲載手数料など)を明示します。期間の制限はなく、支援の有無を含めて正確に記載します。 | 製薬会社A社より臨床試験の支援として研究資金を提供された。 |
研究助成または契約 | 過去36か月以内の研究助成や契約を記載します。研究機関外部からの資金や契約に関する情報を詳細に示します。 | 製薬会社B社から糖尿病薬に関する研究費の助成を受けた。 |
使用料またはライセンス | 特許使用料やライセンス料に関連する収入がある場合に記載します。 | 心臓病関連の診断機器特許に対してC社から使用料収入がある。 |
コンサルティング料 | コンサルティング業務に対する報酬を記載します。 | バイオテクノロジー企業D社でのコンサルティング業務の報酬を受けた。 |
講義・プレゼンテーション・講演などの謝礼 | 学術講演や教育活動への謝礼を受けた場合に記載します。 | 製薬会社E社から糖尿病に関する講演料を受領。 |
鑑定人としての報酬 | 鑑定人としての活動に対する報酬を開示します。 | F社の新薬承認のための鑑定報酬を受けた。 |
会議出席/出張への支援 | 学術会議などへの出席や出張に対する支援があれば記載します。 | 製薬会社G社が学術会議出席に関する渡航費を負担。 |
特許(取得済み、出願中) | 所有している特許や出願中の特許があれば記載します。 | 肝臓疾患に関する治療薬の特許を保有。 |
データ安全監視委員会や諮問委員会への参加 | 委員会や監視機関への参加経験があれば記載します。 | H社の臨床試験監視委員会に所属。 |
他の組織での役割 | 理事会や団体での役割があれば、報酬の有無を問わず開示します。 | I学会の理事を務め、運営に関与。 |
株式保有または株式オプション | 保有している企業株やオプションがあれば記載します。 | J社の株式を保有。 |
機器、物品、贈答品、サービスの受領 | 贈答品や特定のサービスの提供を受けた場合に記載します。 | 医療機器会社K社からの機器提供。 |
その他の金銭的・非金銭的利益 | その他の利益について、特に関係性がある場合は記載します。 | 自身の書籍の印税収入がある。 |
これらの項目に沿って記載することで、論文の利害関係に関する透明性を高め、研究の信頼性を保つことができます。特に、記載すべきか迷う場合には、開示する姿勢が推奨されています。
論文における利益相反の書き方
論文の中での記載場所
論文で利益相反を開示する場合、通常は本文の一番最後「謝辞」の前で「利益相反」などで記載したり、利益相反という項目を設け、「著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.」などと書きます。
論文の利益相反(COI)の記載例
以下は、執筆時に参考にできるような具体的な利益相反の論文のCOI記載例です。
論文:COIの書き方
- 利益相反がない場合の事例
著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関して特に申告すべきものはありません。 - 研究資金提供に関する開示
本研究は製薬会社A社の資金提供により実施されました。本稿の内容および結論にA社の影響はありません。 - 使用料やライセンス収入に関する開示
著者は、○○○○装置に関する特許をB社にライセンス供与しており、使用料収入がありますが、本研究の結果には影響を及ぼしません。 - コンサルティング料に関する開示
筆頭著者は、医療機器開発に関するC社のコンサルタントとして報酬を受けていますが、本研究の内容および結論に影響はありません。 - 講演料に関する開示
本研究の筆頭著者は、D社から糖尿病に関する講演料を受け取っていますが、発表内容には影響を及ぼしません。 - 学会支援に関する開示
本研究に関する学術会議出席に際して、E社が渡航費用を提供しましたが、研究内容および結果の解釈には影響を及ぼしていません。
これらの例のように、利益相反が論文の内容に影響を与えていないことを明示することで、読者に論文の信頼性と独立性を示すことができます。研究において透明性を保つことは、学術的な信頼性を高めるために非常に重要です。
「COIとして申告しなければいけない期間」と「いくらからCOIとして申告すれば良いか」は、とても重要です。詳しく解説します。
利益相反の報告期間と対象範囲
利益相反を報告する期間
対象期間の基本的な考え方
通常、4月1日から3月31日を事業年度としているため、多くの場合、利益相反の対象期間は4月1日から3月31日のを1年間の単位として計算されることが多いです。ただ、1年間の期間をまずは確認する必要があります。
論文や学術大会での発表における具体的な期間
過去1年から3年までを対象期間としてCOI状態の申告を義務付けている事が多いです。
注意点
- 学会やジャーナルごとのルール: 利益相反の開示については、発表される学会や投稿されるジャーナルごとに独自のルールがある場合があります。そのため、それぞれの規定に従う必要があります。
- 開示の判断:利益相反の開示が必要かどうか迷う場合は、開示しないよりも読者に判断をゆだねるべく開示することが推奨されています。
- 継続的な報告:研究期間中は、年度ごとまたは新たに報告すべき利益相反状態が発生するたびに、所属機関のCOI委員会等に報告する必要があります。
研究の公正性と信頼性を確保するために、利益相反の適切な管理と開示は非常に重要です。論文投稿の際は、該当する学術雑誌や学会の最新のガイドラインを確認し、それに従って利益相反を開示することが求められます。
利益相反はいくらからが対象となるのか?
利益相反の対象額は研究機関や学会の規定によって異なりますが、通常は少額の支援や報酬であっても開示が推奨されます。ただし、例えば株の保有であれば、100万円以上を申告する。旅費であれば、50,000円から申告するなど、内容によってばらつきがある可能性があります。まずは発表する学術大会や、投稿する学術団体に確認をしてください。
ただ、基準額が曖昧な場合もありますので、その場合は、透明性を優先し、開示することが重要です。開示することで、研究の独立性を保ち、偏見や疑念を避けることができます。
謝辞と利益相反の違い
謝辞と利益相反の違い
論文の謝辞は、研究に関与した者や機関への感謝を示す部分であり、利益相反の開示とは異なります。
謝辞には必ずしも利益相反の情報が含まれていないため、謝辞の記載だけでは利害関係の透明性を示すには不十分です。そのため、利益相反の有無を謝辞とは別に明示することが推奨されます。
まとめ
学術研究における利益相反(COI)の重要性の再確認
利益相反(COI)は、学術研究の透明性と信頼性を確保するために欠かせない概念です。
利益相反の管理が不十分であると、研究結果が歪曲されるリスクが生じ、社会や学会に対して正確な情報提供ができなくなります。研究者自身が利害関係を開示し、透明性を確保することで、信頼性の高い研究が実現します。
正しい利益相反管理による信頼性向上の意義
利益相反を適切に管理し、開示することは、学術の信頼性を向上させ、研究者の社会的信用を高める意義があります。
特に、ICMJEの開示フォームを活用し、利害関係を詳細に記載することで、読者や社会に対する透明性を確保できます。利益相反管理の重要性を認識し、実行することが、公正で質の高い研究活動の基盤となります。
参考
International Committee of Medical Journal Editors. (n.d.). ICMJE: Home. Retrieved November 2, 2024, from https://www.icmje.org/
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。