学術出版において、オープンアクセス(OA)は近年注目を集めているトピックです。その中でも、S2O(Subscribe to Open)モデルは、従来の購読モデルを活かしながら、著者に費用をかけずにジャーナルのオープンアクセス化を実現する新たな手法として学術コミュニティにとって大きなメリットをもたらします。本記事では、S2Oモデルの仕組みやメリット、課題、そして学術出版における今後の可能性について詳しく解説します。

S2Oモデルの概要

S2Oモデルの定義

S2Oモデルは、図書館や研究機関の定期購読費を基に、購読しているジャーナルをオープンアクセスに転換するビジネスモデルです。

購読者が十分に確保できれば、ジャーナルのコンテンツは無料で公開されます。もし購読者が不足した場合、一般的には従来の購読制限(購読料を払った図書館、研究機関に所属している研究者等が購読できる)モデルが続くというシステムです。

これにより、著者は論文処理料(APC)を支払うことなく、オープンアクセスジャーナルに論文を発表できるメリットがあります。

S2Oモデルの背景と登場の経緯

オープンアクセスの概念は、2000年代初頭から学術出版界で議論されてきました。

従来の購読型モデルに代わる様々なオープンアクセスモデルが試行され、S2OモデルはAnnual Reviews社によって初めて導入されました。このモデルは、図書館や研究機関の定期購読制度を活用することで、より持続可能な形でオープンアクセスを推進するものです。

S2Oと従来の購読型モデルとの違い

S2Oと従来型購読モデルとの違い

S2Oモデル(Subscribe to Open)は、学術出版における従来の購読型モデルとは大きく異なる点がいくつかあります

従来の購読型モデルは、アクセスが購読者に限定されている一方で、S2Oモデルは購読者の協力に基づき、一定の基準が満たされた場合にジャーナルをオープンアクセス化する仕組みです。以下の表では、S2Oモデルと従来の購読型モデルの違いをまとめます。

比較項目従来の購読型モデルS2Oモデル
アクセス権購読者のみがコンテンツにアクセスできる購読者数が基準を満たせば、全ての読者に無料でアクセス可能
著者のコスト著者はAPCを支払わない著者はAPCを支払わない
オープンアクセスの条件オープンアクセスは基本的に提供されない購読者数が一定数に達すれば、オープンアクセスが提供される
持続可能性安定した購読収入を提供し、購読が継続される限り持続可能購読者が十分であれば持続可能、購読者不足の場合は従来のモデルに戻る
図書館の負担購読料を支払うことでアクセスを得る購読料を支払い、購読数が基準に達すればオープンアクセスを提供
学術コミュニティへの影響購読者のみがアクセスできるため、研究の普及が制限されるすべての研究者がアクセスできるため、研究の普及や協力が促進
S2Oと従来型購読モデルとの違い

S2Oモデルは、従来の購読型モデルの制約を緩和し、学術コミュニティ全体により多くの利益をもたらすことが期待されています。

特に、著者の負担が軽減され、世界中の研究者が無料でアクセスできるという点で、研究の可視性や影響力が大幅に向上します。しかしながら、S2Oモデルの成功には、購読者の安定した協力が不可欠であり、購読者数の確保や予算の課題が引き続き残されています。それでも、S2Oモデルは今後、学術出版において重要な役割を果たしていく可能性があります。

S2Oモデルと他のオープンアクセスモデルとの違い

S2Oモデルは、従来の購読モデルやゴールドOA、ハイブリッドOA、ダイアモンドOAなどの他のオープンアクセスモデルと比較して、特に著者にとっての費用負担を軽減し、購読者がオープンアクセスを支援する形をとっています。以下の表で、その違いをまとめます。

モデル仕組みAPC(著者負担)オープンアクセス化の条件作成者の費用・手順OAの対象OAステータス
S2Oモデル購読者が十分に確保されれば、ジャーナル全体がオープンアクセスに。不要購読者数が一定基準を満たした場合作成者に費用や追加の手順はありませんすべての著者が無料で出版する権利がありますOAステータスは年/ボリュームごとに変更される場合があります。
ゴールドオープンアクセス著者がAPCを支払うことで、論文がすぐにオープンアクセスになる。必要著者がAPCを支払うと即座にOA化。学術誌単位でOA化OAを選択するための追加の手順はありませんが、費用がかかります一部の著者はAPC割引または免除の対象となりますデフォルトではすべてのボリュームがOAです
ダイヤモンド/プラチナオープンアクセススポンサー団体が費用を負担し、著者には費用がかからない。不要スポンサー団体がOA出版を可能にする作成者に費用や追加の手順はありませんすべての著者が無料で出版する権利がありますDiamond/Platinum OAジャーナルではすべての巻がデフォルトでOAです
ハイブリッドオープンアクセス購読型ジャーナルで、著者がAPCを支払えば論文がオープンアクセスになる。購読型モデルとAPC支払いモデルのハイブリッド。必要(部分的)著者ごとにAPCを支払い、論文単位でOA化OAを選択するために追加の手順とAPCが必要です著者ごとのAPC支払いによる部分的なOA化が可能です購読ジャーナルとオープンアクセス論文が共存します
S2Oと今までのオープンアクセスモデルとの違い

S2Oモデルの仕組み

S2Oモデルの基本的な運用プロセス

S2Oモデルは、ジャーナルが定期的に購読者へ購読更新を依頼するプロセスに基づいています。

もし十分な購読者が更新に応じれば、その年のジャーナルの内容はオープンアクセスとして公開されます。購読者が不足すると、従来のように購読者のみがアクセスできる形に戻ることが一般的です。

出版者と購読者の役割

出版社は、定期購読の価格設定や購読者への働きかけを行い、購読者がS2Oモデルに参加するよう促したり、新規購読者に対してマーケティングなどを行い、購読者となっていただくような施策を行います。

一方、購読者である図書館や研究機関は、ジャーナルの購読を通じてオープンアクセスを支援します。

S2Oモデルのメリット

研究者と読者にとってのメリット

S2Oモデルは、研究者が論文を発表する際にAPCを支払う必要がないため、特に資金が限られている研究者にとって大きな利点です。

また、オープンアクセスにより、世界中の読者が無料で研究成果にアクセスできるため、研究の可視性やインパクトが向上します。

出版社にとってのメリット

出版社にとっても、S2Oモデルは持続可能なビジネスモデルです。

従来の購読収入を維持しつつ、オープンアクセスを提供できるため、新たな管理コストを抑えながら広範な読者にリーチすることが可能です。

学術コミュニティ全体への影響

S2Oモデルは、学術コミュニティにとっても大きなメリットがあります。

より多くの研究が広く共有されることで、研究の進展や国際的な協力が促進され、研究の質が向上します。

S2Oモデルの課題

S2Oモデルが抱える課題とリスク

S2Oモデルの最大の課題は、購読者を確保することです。十分な購読者が集まらなければ、ジャーナルをオープンアクセスに移行できず、従来通りの購読制限が続いてしまいます。

そのため、購読者の協力が非常に重要であり、インセンティブを提供するなどして購読者との連携を強化することが必要不可欠です。

維持可能性の問題とその解決策

特に、図書館や研究機関の予算が限られている中で、長期的にS2Oモデルを維持するためには、価格の調整や購読者へのインセンティブが必要です。

例えば、年間購読料の割引や過去のバックナンバーへのアクセスなど、購読者を維持するための施策が考えられます。

学術出版の未来におけるS2Oモデルの役割

S2Oモデルが学術出版にもたらす未来像

S2Oモデルは、持続可能なオープンアクセスモデルとして、学術出版の未来において重要な役割を果たす可能性があります。

特に、従来の購読モデルとオープンアクセスのハイブリッドな形態を取ることで、広範なアクセスを実現しつつ、出版社や購読者の利益も守ることができます。

他のオープンアクセスモデルとの併用の可能性

S2Oモデルは、他のオープンアクセスモデルと併用することも可能です。例えば、ゴールドOAやダイヤモンドOAとの併用により、異なる資金状況や研究分野に対応した柔軟な出版戦略を構築できます。

まとめ

S2Oモデルは、学術出版における新しいオープンアクセスモデルとして、その持続可能性や公平性が注目されています。

購読者の協力やインセンティブを示すことで、著者に負担をかけずにオープンアクセス化を推進できる点が大きな利点です。しかし、購読者の確保や予算の問題など、今後解決すべき課題も残されています。

S2Oモデルは、学術コミュニケーションの未来において、他のモデルと共存しつつ発展していく可能性があります。

参考

Annual Reviews. (n.d.). Subscribe to Open. Retrieved from https://www.annualreviews.org/S2O

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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