エンバーゴ(英語: embargo)とは、学術出版において読者にオンラインの論文全文の閲覧を一時的に制限する措置です。この制度は、出版社や学会の収入源を確保し、研究成果が公正に評価されるための時間を提供するなど、重要な役割を果たしています。しかし、エンバーゴ期間が長すぎると研究の進展を妨げるリスクもあり、その適切なバランスが求められます。本記事では、エンバーゴの詳細な役割や種類、メリットとデメリットについて詳しく解説します。

エンバーゴとは何か?

エンバーゴ(英語: embargo)とは、学術出版において読者にオンラインの論文全文の閲覧を一時的に制限すること、また著作者に公表差し止めや口外差し止めを課すことを指します。前者の対象は、有償購読をしない利用者や、所属機関のサブアカウントからアクセスする利用者などです。

学術出版におけるエンバーゴの役割

エンバーゴは、学術出版においていくつかの重要な役割を果たします。まず、エンバーゴは出版社や学会の収入源を確保する手段とされています。これにより、出版社は有償購読の収益を維持し、質の高い学術コンテンツを提供し続けることができます。また、エンバーゴは研究者に対して、公正な評価を受けるための時間を提供し、研究成果が正式に認められる前に情報が広まることを防ぎます。

エンバーゴが設定される理由

エンバーゴとは、学術出版において論文の全文閲覧を一時的に制限する措置です。これには以下のような理由です。

エンバーゴ期間とその影響

エンバーゴ期間は、通常数日から数週間に設定されます。この期間中、研究者は論文の内容を公開することができず、メディアも報道を控える必要があります。エンバーゴが適切に守られることで、研究成果が誤解されることなく、正確に伝えられる可能性が高まります。しかし、エンバーゴ期間が長すぎると研究の迅速な発展を妨げるという批判もあります。

  • 収入源の確保: 出版社が有償購読を促進するため。
  • 著作権保護: 著者の権利を守るため。
  • 研究の進展: 特定の研究が広く公開される前に、関連分野でのさらなる研究を促進するため。

2012年に行われた調査によれば、エンバーゴと購読制には少なからずマイナスの関係が予想されています。この調査では、発行の半年後に掲載記事の大半が無料で読めるなら、その学術誌は購入対象外とする(journal cancellations)という回答が多く見られました(調査主体は学術専門学会出版会 ALPSP: Association of Learned, Professional, and Society Publishers)。

エンバーゴ付き学術誌(英語版)(delayed open access journal)はエンバーゴにより、有償で提供する直近の巻号と、それより前の無償で誰にでも利用できる巻号を分けています。その期間は通常2、3ヵ月から数年の幅があります。また、セルフ・アーカイブの場合、出版社が著作権移行規定(Copyright transfer agreement)に設定した期間があり、電子化した機関リポジトリにアーカイブされた記事はエンバーゴ期間の経過まで利用できません。一般にその期間は半年から24ヵ月ですが、出版社によっては48ヵ月とされる場合もあります。さらに、全文データベースとしてエブスコ出版やプロクエストの場合、直近の巻号は記事名もしくは梗概のみ掲載し、それ以前の論文は公開して提供することも一般的です。

エンバーゴの種類

エンバーゴにはいくつかの種類があります:

  1. ムービング・ウォール:学術誌の直近号を指定のオンライン・データベースで提供を始める時点と、直近の冊子版の雑誌の出版日との差を指します。この期間は通常数ヵ月から数年の幅があります。
  2. 特定日:固定された日時を設定します。
  3. 現在年:現在の年の1月1日を期日とし、それより前の文献はすべて利用可能とするものです。

エンバーゴ期間の長さ

エンバーゴ期間の長さは分野によって異なります。一般的に、STEM(科学、技術、工学、数学)分野では6-12ヵ月、社会科学および人文科学では12ヵ月以上が設定されています。

エンバーゴと研究者の関係

研究者にとってエンバーゴは、研究成果の発表タイミングを管理する重要なツールです。エンバーゴ期間中に成果が適切に評価され、同僚やメディアによって正確に伝えられることで、研究者の名声やキャリアにも大きな影響を与えることがあります。しかし、エンバーゴの遵守は厳格であり、違反すると研究者や所属機関の信頼が損なわれるリスクも伴います。

エンバーゴと学術コミュニティ

学術コミュニティにとってエンバーゴは、研究の質と信頼性を確保するための重要な仕組みです。エンバーゴ期間中に研究成果が慎重に評価されることで、コミュニティ全体の科学的進歩が促進されます。また、エンバーゴは新しい研究成果が正確に共有される機会を提供し、誤情報の拡散を防ぐ役割も果たします。

エンバーゴ期間中の情報漏洩リスク

エンバーゴ期間中の情報漏洩は、学術出版において重大な問題です。情報漏洩が発生すると、研究成果が正式に発表される前に誤った情報が広まり、研究者や学術誌の信頼性が損なわれる可能性があります。情報漏洩を防ぐためには、関係者全員がエンバーゴの重要性を理解し、厳格に守ることが求められます。

エンバーゴ解除後のプロセス

エンバーゴが解除されると、研究成果は正式に公表され、メディアや一般に公開されます。この時点で、研究者は成果を広く共有し、他の研究者や専門家からのフィードバックを受けることができます。また、メディアによる報道が開始され、一般の関心が高まることも期待されます。

エンバーゴとオープンアクセスの関係

近年、即時オープンアクセスの動きが加速する中で、エンバーゴの役割も変わりつつあります。オープンアクセスは、研究成果を無料で公開し、誰でもアクセスできるようにすることを目指していますが、エンバーゴ期間を設けることで研究の質を確保する必要性も依然として存在します。しかし、即時オープンアクセスが広まりつつあり、エンバーゴ期間が少なくなりつつある状況です。また、購読モデルの変化により、エンバーゴ期間中に費用を取ることも減りつつあります。エンバーゴとオープンアクセスのバランスを取ることが、今後の課題となっています。

エンバーゴのメリットとデメリット

エンバーゴには多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。メリットとしては、公正な評価の確保、適切な報道の準備、研究の信頼性の向上などが挙げられます。さらに、エンバーゴ付き学術誌やセルフ・アーカイブ、全文データベースの利用により、収入源を確保しつつ、特定の期間後には無料でアクセスできる仕組みを提供することで、幅広い読者に情報を届けることが可能です。また、ムービング・ウォールの仕組みにより、直近の巻号は有償で提供され、それ以前の巻号は無料で公開されることで、読者と出版者の双方に利益をもたらします。

一方、デメリットとしては、情報の公開が遅れることで研究の進展が妨げられる可能性や、情報漏洩のリスクが増すことが考えられます。また、即時オープンアクセスの普及に伴い、エ

ンバーゴ期間が短縮されることで、従来の収益モデルが変わるという課題もあります。

まとめ

エンバーゴは学術出版において重要な役割を果たしており、研究成果の正確な伝達と公正な評価を支えるための仕組みです。エンバーゴ期間中の情報漏洩リスクや、オープンアクセスとのバランスなど、多くの課題も存在しますが、これらを克服することで、より透明性と信頼性の高い学術コミュニティの形成が期待されます。

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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