APC(論文出版料、Article Processing Charge)は、学術論文をオープンアクセス(OA)で出版する際に発生する費用です。本記事では、APCの基本概念や歴史、学術出版における役割、費用構造、影響などを包括的に解説します。研究者が知っておくべきAPCのすべてを詳しく見ていきましょう。

APCとは何か?:APCの基本概念と定義

APC(Article Processing Charge)は、学術論文をオープンアクセス(OA)で出版する際に発生する費用です。論文出版料と呼ばれ、この費用は論文の著者またはその所属機関が支払うことが一般的です。

APCは、論文の公開にかかる編集、査読、出版プロセス全般をカバーするための費用であり、読者が無料で論文にアクセスできるようにするために必要な経費です。

国内で発行されている学術誌は、まだ一般的には学術団体の会費等で無料でアクセスできるように出版、運営されていることも多いですが、オープンアクセスジャーナル(OA誌)はAPCによって出版費用を賄っています。

APCを日本語では何と言う?

APC(Article Processing Charge)は日本語で「論文掲載料」と呼ばれることが多く、他にも「論文処理費」「論文出版加工料」「論文出版料」また英語では「Publication fees」とも呼ばれることがあります。

この読み方は、学術論文をオープンアクセスで出版する際に発生する費用を指しており、APCという言葉は、出版工程全般をカバーしていることを表しています。

具体的にはAPCは、論文の編集、査読、出版、WEB上での公開、データの保存、WEB上でアクセスの維持など、論文を公開するためのすべての費用を含んでいる経費となります。

APCの歴史と発展

APCの概念は、オープンアクセス出版の普及とともに発展しました。

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネットの普及により学術情報のアクセスが劇的に変化しました。その結果、オープンアクセス運動が始まり、誰もが自由に学術論文にアクセスできることを目指す取り組みが強化されました。初期のオープンアクセスジャーナル(OAジャーナル)は、資金調達の一環として著者にAPCを課すモデルを採用し、これが現在の標準的なOA出版モデルとなりました。

APCとオープンアクセスの関係

APCは、オープンアクセス出版の持続可能性を支える重要な要素です。

オープンアクセスは、学術情報を広く共有し、研究の透明性と再現性を高めるための重要な手段とされています。しかし、オープンアクセスを実現するためには、出版プロセスにかかる費用をカバーする方法が必要です。APCはその解決策の一つであり、著者が負担することで読者が無料でアクセスできるようになります。

学術出版におけるAPCの役割

学術出版において、APCは論文の質を保ち、迅速な出版を可能にするための重要な役割を果たしています。APCは、編集者や査読者への報酬、出版プロセスに必要な技術的サポート、論文のデジタル保存とアクセスの維持など、様々なコストをカバーします。また、APCを支払うことで、著者は自分の研究成果を迅速に公開し、広く共有することができます。

APCの費用

APCの料金内訳

APCの費用構造は、出版社やジャーナルによって異なりますが、一般的には以下のような内訳となります:

APC(論文掲載料)内訳

  • 編集費用:論文の編集と形式的なチェック
  • 査読費用:査読者への報酬
  • 出版費用:論文のレイアウト(組版・誌面制作)、デザイン、オンライン公開
  • マーケティング費用:論文の広報とプロモーション
  • 技術な費用:論文のデジタル保存とアクセスの維持

これらの費用をカバーするために、APCは論文の長さや複雑さ、ジャーナル(学術雑誌)の影響力などに応じて変動します。

研究者が負担するAPCの影響

APCの導入により、研究者は自分の研究成果をオープンアクセスで公開するための費用を負担する必要があります。

これは特に資金が限られている研究者や発展途上国の研究者にとって負担となることがあります。しかし、一部の研究機関や資金提供団体は、研究者がAPCを支払うための補助金や助成金を提供しています。また、いくつかのジャーナルは免除制度を設けており、経済的に困難な状況にある著者にはAPCを免除することがあります。

APCと研究機関の資金調達

研究機関や大学は、研究者がAPCを支払うための資金を確保するために、さまざまな方法を用いています。

多くの大学は、研究費の一部としてAPCをカバーする予算を設けています。また、いくつかの機関は、特定の出版社と契約を結び、APCを割引または全額カバーするプランを提供しています。これにより、研究者は自分の研究をオープンアクセスで公開する負担を軽減することができます。

世界のAPC市場の現状と動向(APCの費用例)

APCの市場は、国や地域によって異なりますが、全体的には増加傾向にあります。

例えば、Nature やPLOS ONEなどの著名なオープンアクセスジャーナル(OAジャーナル)では、APCが2,000ドルから5,000ドルの範囲で設定されています。

また、APCはジャーナルの影響力や分野によっても異なり、高い影響度のジャーナルほど高額になる傾向があります。

APCと出版品質

APCと出版品質との関係

APCは出版品質に直接的な影響を与えることがあります。高額なAPCを課すジャーナルは、一般的に高品質の編集と査読プロセスを提供し、研究成果の信頼性を確保しています。

一方で、低品質なジャーナルや「ハゲタカジャーナル」(predatory journals)は、低額または無料のAPCを課しながら、適切な査読プロセスを行わず、低品質な論文を大量に出版することがあります。したがって、研究者はAPCの額だけでなく、ジャーナルの評判や査読プロセスの質を考慮して選択する必要があります。

ハゲタカジャーナルとは:ハゲタカジャーナルの見分け方・投稿を避ける

ハゲタカジャーナルとは、低品質な研究を掲載し、研究者から不当な費用を徴収する悪質な学術雑誌です。学術界全体に多大な影響を与えるこの問題への対策が急務となっています。

APCに対する批判とその対策

APCに対する批判としては、以下のような点が挙げられます:

  • 経済的負担:研究者や機関にとってAPCは経済的な負担となる
  • 不平等資金のある研究者や機関とそうでない者の間に格差が生じる
  • 質の低下:一部のジャーナルはAPCを優先し、質の低い論文を受け入れる

これらの批判に対する対策としては、免除制度の拡充や補助金の提供、厳格な査読プロセスの維持が挙げられます。また、研究機関や政府は、オープンアクセスの促進とともに、研究者がAPCを負担する際のサポートを強化することが求められます。

APCと学術雑誌の選び方

研究者がAPCを支払って論文を投稿する際には、以下のポイントを考慮して学術雑誌を選ぶことが重要です:

  • ジャーナルの評判:インパクトファクターや過去の論文の質
  • 査読プロセス:厳格かつ公正な査読が行われているか
  • APC費用:予算に見合った費用か
  • オープンアクセスの範囲:どの程度広く公開されるか
  • 出版スピード:論文の公開までの時間

これらを総合的に評価し、最適なジャーナルを選ぶことが、研究成果の効果的な発信につながります。

また、ハゲタカジャーナルに注意することも重要です。ハゲタカジャーナルは、低品質な査読プロセスを行い、APCを主な収入源としているため、研究者の努力が無駄になる可能性があります。信頼性のあるジャーナルを選ぶことで、研究成果の信頼性と影響力を保つことができます。

APCの未来と今後の展望

APC(Article Processing Charge)の未来については、オープンアクセスの普及とともに、その役割がますます重要になると予測されています。

特に、国際的なオープンアクセスの推進や、研究機関のサポート体制の強化が進む中で、APCの負担を軽減するための新しいモデルや仕組みが導入される可能性があります。また、技術の進化により、出版プロセスが効率化され、APCのコストが削減されることも期待されます。

まとめ

APC(Article Processing Charge)は、学術論文をオープンアクセスで公開するための重要な費用です。研究者や所属機関がこの費用を負担することで、論文が広くアクセス可能となり、学術情報の共有が促進されます。しかし、APCには経済的な負担や質の低下といった課題も存在します。これらの課題に対処しつつ、APCの未来に向けて持続可能なオープンアクセスの実現を目指すことが求められます。

参考

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Björk, B.-C., & Solomon, D. (2012). Pricing Principles Used by Scholarly Open Access Publishers. Learned Publishing, 25(2), 132-137.

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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