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CoARA(Coalition for Advancing Research Assessment)は、研究評価の新しい枠組みとして、研究成果の多様性と質を重視する国際的な協力体制です。従来の論文インパクトファクターに頼った評価方法を見直し、研究者や機関がより公平で包括的な評価を受けられる環境を構築することを目的としています。CoARAは、教育や社会貢献など多面的な研究貢献を正当に評価し、学術界全体の健全な発展を促進します。
CoARAの概要と設立背景
CoARA設立の背景と目的
CoARA(Coalition for Advancing Research Assessment)は、研究評価の方法と基準を再定義するために設立された国際的な枠組みです。
従来の研究評価が論文の影響因子や発表雑誌の評価(Journal Impact factor:JIF)等に偏りがちで、研究の多様性や社会的価値を十分に反映できていないという課題意識から生まれました。
研究成果が定量的な指標に偏って評価される現状は、研究者間の不健全な競争や非効率な資金運用を引き起こし、研究の質や影響力に悪影響を及ぼす懸念があります。これに対し、CoARAは多様な研究成果や価値を公平に評価し、研究者がより自由に創造的な活動に従事できる環境を目指しています。
現在の研究評価の課題とその影響
従来の研究評価には以下のような課題があります:
現在の研究評価の課題とその影響
- ジャーナル影響因子や出版指標への依存:特定の雑誌や論文数に基づく評価は、研究の多様性や長期的な影響を評価できない
- 研究者のキャリアへの負の影響:研究成果が特定の指標でしか評価されないため、独創的な研究や教育・指導といった貢献が正当に評価されない
- 不健全な競争:評価の基準が狭いため、研究者は短期的な成果を目指しがちで、長期的な視野に基づいた研究が困難
これらの課題を解決するため、CoARAは「共通の原則とコミットメント」を基に研究評価の改革を進め、学術コミュニティ全体での合意形成を目指しています。
先行事例から学ぶ研究評価改革の必要性
CoARAは、DORA(San Francisco Declaration on Research Assessment)、ライデン宣言、香港原則など、これまでの研究評価改革の先行事例を基盤としています。
これらの先行事例は、研究の質を高めるために多様な貢献を評価する必要性を提唱しており、CoARAはこれらの取り組みを参考にしつつ、国際的な枠組みでの広範な合意形成と実施を目指しています。
CoARAのビジョンとミッション
CoARAのビジョンとミッションの概要
CoARAのビジョンは、研究、研究者、そして研究組織の評価が、多様な成果や実践、活動を認識し、研究の質と影響力を最大化することです。
具体的には、論文以外の貢献や、教育、指導、コミュニティ活動といった活動も含めて評価を行うことで、研究者が幅広い形で社会に貢献することを促進します。
共通原則と取り組み目標の重要性
CoARAのミッションは、共通の原則と目標に基づいて研究評価を体系的に改革することです。これを達成するため、メンバー組織間の情報交換と相互学習を促進し、研究評価の質の向上と持続的な進化を支えます。
CoARAに参加する組織は、このビジョンとミッションに基づいて活動を進め、より公平で包括的な研究評価基準の確立を目指します。
CoARAの合意とその意義
CoARA合意の10の基本原則
CoARAの合意は、研究評価改革の共通指針として10の基本原則を定めています。
以下に、「10のコミットメント(4つのコアコミットメントと6つのサポートコミットメント)」を表形式にしております。
コミットメント | 内容の目的 | 範囲(Scope) |
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研究の多様な貢献とキャリアを認識 | 研究分野の特性に応じた多様な貢献や活動、キャリアを幅広く認識する | 評価の実践を変えることで、論文以外の成果や多様な役割を認識し、研究の包括的な価値を評価する |
質的評価を重視し、責任ある定量指標の利用 | 質的評価を中心とし、必要に応じて定量指標を補助的に使用する | 質的評価(ピアレビュー:査読)を重視し、適切な場合にのみ定量指標を補助的に使用。評価の透明性と公正性を確保する |
ジャーナル・出版指標の不適切な使用の廃止 | 不適切な定量指標の使用を減らし、多様な研究貢献の評価を促進する | インパクトファクターやh指数(h-index)など、不適切な定量指標の使用を廃止し、質と影響を正確に評価する |
研究機関のランキング使用の抑制 | 外部ランキング指標による評価基準の影響を抑え、独自の評価体制を強化する | ランキング基準が個別評価に影響しないようにすることで、研究機関が独自の評価基準を確立し、評価体制の独立性を保つ |
評価改革のためのリソース確保 | 評価基準改善のために必要な予算やスタッフの確保 | 必要なリソース(予算や人員)を確保し、評価基準の計画とモニタリングをサポートする |
評価基準、ツール、プロセスの見直しと開発 | 評価基準を見直し、革新する | 研究機関、プロジェクト、研究者の評価基準の見直しや新基準の策定 |
評価改革に関する意識向上と透明なコミュニケーション | 改革の透明性を高め、トレーニングを実施する | すべての関係者に対し評価基準の透明性を確保し、トレーニングとガイドライン提供 |
実践の共有と相互学習の促進 | 情報交換を通じて改革を支援する | 実践や経験の共有を通じて、他組織との相互学習を促進し、評価の連携を強化 |
進捗状況の共有と報告 | 改革の進捗を定期的に報告し、継続的な自己評価を促進 | 進捗状況の報告を行い、相互に評価と成功、課題の共有 |
エビデンスに基づく評価とデータのオープン化 | エビデンスを基に評価方法を改善し、評価データの公開を促進 | 現行の評価方法の改善やエビデンスに基づくデータ公開を行い、評価の信頼性を強化 |
CoARAの合意には、改革の基盤となる4つのコアコミットメントと、支援的な6つのサポートコミットメントが含まれています。これらのコミットメントに基づいて、研究評価の改革を推進し、メンバー組織間での協力を強化します。
CoARAの運営と組織体制
メンバーシップとそのメリット
CoARAのメンバーには、評価基準の改善を目指す支援体制と、相互に学び合うための場が提供されます。
具体的には、メンバーはワーキンググループや実践コミュニティに参加することで、他の組織の経験を共有し、実践的な指導を受けることができます。
CoARAのガバナンスは、メンバー総会と運営委員会によって構成されており、欧州科学財団(ESF)が事務局を務めます。運営委員会は、メンバーの意見をもとに活動計画や戦略を策定し、全体の運営方針を決定します。
CoARAはヨーロッパのみならず、世界中の研究評価組織と連携し、評価基準の国際的な整合性を図っています。これにより、異なる地域の評価基準が調和し、研究者が地理的な制約なくキャリアを築ける環境を構築しています。
CoARAの課題と今後の展望
CoARAが直面する課題
CoARAは、既存の評価基準の見直しと新たな基準の確立という課題に直面しています。特に、国際的な評価基準との調整や、各国の文化や組織風土に適した評価体制の構築が求められています。
CoARAは、異なる地域間で評価基準の調和を図ることにより、国際的な研究活動を推進する環境を提供します。これにより、研究者が地理的な制約なくキャリアを築けるようになります。
今後の展望として、研究者がキャリアを構築しやすい評価制度の確立が求められています。多様なキャリアパスを支援し、教育・指導やアウトリーチ活動といった多様な活動が評価される環境の整備が急務です。
まとめ
CoARAは、従来の研究評価基準の課題を見直し、研究の質と影響力を最大化するための新しい枠組みとして注目されています。研究の多様性や価値を正当に評価するための共通基準と協力体制を構築し、国際的な研究環境の整備に貢献することを目指しています。今後、さらなる評価基準の改善と、国際的な連携の強化が期待されます。
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。