DORA宣言は、研究評価の新しい基準として2012年に発表されました。本記事では、DORA宣言の概要や背景、目的、主要な提言、そしてその国際的な影響について詳しく解説します。

DORA宣言の概要

DORA宣言(San Francisco Declaration on Research Assessment:DORA)とは、2012年にアメリカ細胞生物学会(ASCB)の年次会議において起草された研究評価に関する勧告です。

この宣言は、研究評価の方法に対する根本的な見直しを求めるもので、特にインパクトファクターなどの雑誌ベースの数量的指標に過度に依存することなく、研究の質とインパクト(影響)を公正に評価することを目的としています。

DORA宣言の背景と歴史

DORA宣言は、研究者、学術機関、資金提供機関、ジャーナル編集者など、学術コミュニティ全体にわたる広範な議論と協議を経て策定されました。インパクトファクターなどの雑誌ベースの指標が、研究者の評価、採用、昇進、研究費の助成などの決定に過度に影響を与えていることが問題視されていた背景があります。これにより、研究の質よりも発表する雑誌の影響力が重視される風潮が広まり、研究の多様性や独創性が損なわれる危険性が指摘されていました。

研究評価の現状と問題点

現状、研究評価は多くの場合、インパクトファクターや論文の発表数といった数量的指標に大きく依存しています。これらの指標は、研究の質やインパクトを簡便に測定する手段として広く利用されていますが、一方で以下のような問題点があります。

  • 研究の質を正確に反映しない: インパクトファクターは特定の雑誌の影響力を示すものであり、個々の論文の科学的価値や質を直接評価するものではありません。
  • 特定分野の偏重: 高インパクトファクターの雑誌は、特定の研究分野やトピックに集中していることが多く、他の分野の研究が過小評価されるリスクがあります。
  • 研究者への過度なプレッシャー: 高インパクトファクターの雑誌に掲載されることが研究者のキャリアにおいて重要視されるため、短期間での成果を求められるプレッシャーが増し、研究の質や倫理が損なわれる可能性があります。

DORA宣言の目的と基本原則

DORA宣言の目的は、研究評価の方法を見直し、研究の質とインパクトをより公正かつ多面的に評価することです。具体的には以下の基本原則が掲げられています。

  • 雑誌ベースの指標の使用制限: インパクトファクターなどの雑誌ベースの数量的指標を、研究者の評価や研究費の助成決定の際に使用しないこと。
  • 研究の多面的評価: 研究の質やインパクトを評価する際には、出版物のみならず、データセット、ソフトウェア、特許、社会的影響など、研究のすべての成果を考慮すること。
  • 透明性と公正性: 評価プロセスの透明性を確保し、公正な基準に基づいて評価を行うこと。

DORA宣言の利点と課題

DORA宣言の利点と課題については以下の通りです。

利点

  • 研究の質向上: 研究の質やインパクトを公正に評価することで、研究の質が向上します。
  • 研究者のモチベーション向上: 多様な評価基準の採用により、研究者のモチベーションが向上し、創造的な研究活動が促進されます。
  • 公正な評価: 研究評価の透明性と公正性が確保され、研究者間の不公平感が解消されます。

課題

  • 新しい評価基準の確立: インパクトファクターに代わる新しい評価基準を確立する必要があります。
  • 評価プロセスの整備: 新しい評価基準に基づいた評価プロセスの整備が求められます。
  • 文化の変革: 学術コミュニティ全体の意識改革が必要であり、長期的な取り組みが求められます。

DORA宣言の批判と反論

DORA宣言には、いくつかの批判もあります。

  • 実行可能性の疑問: インパクトファクターに代わる具体的な評価基準が明確でないため、実行可能性に疑問があるという意見があります。
  • 評価の主観性: 質的指標に基づく評価は主観的になりやすく、公正性が担保されない可能性があります。
  • 既存のシステムとの整合性: 既存の評価システムとの整合性をどのように確保するかが課題となります。

今後の展望と可能性

DORA宣言の今後の展望と可能性は多岐にわたります。まず、DORA宣言の原則が国際的に広まり、研究評価の方法がグローバルに統一される可能性があります。これは、研究の質やインパクトをより公正に評価するための重要なステップとなります。また、インパクトファクターに代わる新しい評価基準が開発されることで、研究の多様な側面を多面的に評価できるようになります。これにより、単一の指標に依存しない、公正で包括的な評価が可能となります。

さらに、研究評価の見直しは研究文化全体の変革を促進します。研究者は、より創造的で倫理的な研究活動に専念できる環境が整い、長期的な研究の質の向上が期待されます。このような変革は、研究者個人だけでなく、学術コミュニティ全体にとっても大きな利益をもたらすでしょう。

研究評価の未来

DORA宣言に基づく研究評価の未来は、いくつかの特徴を持つことが期待されます。まず、多面的な評価が導入されることで、研究の質やインパクトがより正確に評価されるようになります。これにより、研究の多様性や独創性が尊重され、研究者は自身の研究に対する公正な評価を受けることができるでしょう。

次に、評価プロセスの公正性と透明性が確保されることで、研究者間の信頼関係が強化されます。透明性のある評価プロセスは、評価結果に対する信頼を高め、公平な競争環境を提供します。最後に、持続可能な研究環境が整うことで、研究者が長期的に持続可能な研究活動を行えるようになります。これにより、短期的な成果にとらわれず、長期的な視点での研究が推進されます。

DORA宣言に対するコミュニティの反応

DORA宣言に対する学術コミュニティの反応はさまざまです。多くの研究者や学術機関、資金提供機関は、DORA宣言を支持し、公正な研究評価の実現に向けた取り組みを進めています。これにより、研究の質やインパクトを正確に評価するための新しい基準が広まりつつあります。

一方で、一部の研究者や機関は、新しい評価基準の実行可能性や具体的な手法に対して懐疑的な見解を示しています。新しい評価基準の導入には時間がかかることや、既存のシステムとの整合性が課題となることが懸念されています。

しかし、一部の先進的な機関は、DORA宣言の原則を積極的に導入し、評価プロセスの見直しを進めています。これらの機関は、新しい評価基準を実践することで、より公正で多面的な評価を実現し、研究環境の改善を目指しています。このような取り組みは、他の機関や研究者にとっても参考となり、DORA宣言の原則がさらに広がることが期待されます。

まとめ

DORA宣言は、研究評価の方法を見直し、研究の質とインパクトを公正に評価するための新たな基準を提示する重要な取り組みです。インパクトファクターに依存しない多面的な評価基準を導入することで、研究者、学術機関、資金提供機関、ジャーナル編集者など、学術コミュニティ全体が公正で透明な評価を実現し、持続可能な研究環境を構築することが期待されます。今後、DORA宣言の原則が国際的に広まり、研究文化全体が変革することで、より創造的で倫理的な研究活動が促進されるでしょう。

参考文献

San Francisco Declaration on Research Assessment. (2012). Retrieved from https://sfdora.org/read/read-the-declaration-japanese/

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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