PORTICOは、学術コンテンツの長期保存とアクセスを保証するデジタルアーカイブシステムです。特に、トリガーイベントと呼ばれる特定の条件下で、ロックされた学術資料を安全かつ適切にアクセス可能にする独自の機能が特徴です。このシステムは、J-STAGEなどの日本の学術プラットフォームにも導入され、学術情報の永続的な保存と保護において重要な役割を果たしています。PORTICOの利用により、デジタルコンテンツの安全性と信頼性が飛躍的に向上します。

PORTICOとは何か?

PORTICO(ポルティコ)は、学術コンテンツの長期保存とアクセスを目的としたデジタルアーカイブシステムです。

アメリカの非営利団体イタカ(ITHAKA)によって運営され、ダークアーカイブとしての役割を果たしています。ダークアーカイブとは、特定の条件が満たされた場合にのみコンテンツがアクセス可能になる仕組みを指します。

PORTICOは、出版社や学術機関から提供された学術論文、学術雑誌、書籍などのデジタルコンテンツを特定のサーバーに集約して保存し、学術情報の永続的な保存を保証するシステムです。

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PORTICOの基本概要の目的

PORTICOの主な目的は、デジタル形式で保存された学術コンテンツを永続的に保存し、将来の研究者や学生が確実にアクセスできるようにすることです。

電子ジャーナルや電子書籍、学術データセットなどのコンテンツが、出版者のウェブサイトからアクセスできなくなった場合や特定の条件が満たされた場合に、PORTICOが保存しているコンテンツを利用者に提供します。これにより、学術研究の継続性を確保することができます。

PORTICOの設立背景と発展

電子出版の普及により、学術コンテンツがデジタル形式で提供されることが一般的になりました。

しかし、その長期保存やアクセス保証が課題となっており、これに対応するためにPORTICOは2002年に設立されました。以来、PORTICOは多くの出版社や図書館と協力しながら、その役割を拡大しています。現在では、1,000を超える図書館と1,000を超える出版社が参加しており、学術研究の永続的な保管に重要な役割を果たしています。

PORTICOの利用者と登録数

PORTICOは、多くの学術機関や出版社に利用されており、その登録数も非常に多いです。以下に主な利用状況をまとめます。

項目数量
参加出版数1,100以上
参加図書館数1,200以上
トリガーイベント数210以上
保存されたアーカイブユニット数(記事、書籍など)144,580,000以上
保存された電子ジャーナルのタイトル数39,400以上
保存された電子書籍のタイトル数2,101,000以上
参加社会・団体数2,000以上
PORTICOの利用者と登録数(2024年8月現在)

PORTICOのメリット

PORTICOは、学術コンテンツの長期保存とアクセス保証を提供する信頼性の高いデジタルアーカイブシステムとして、学術機関や出版社から高く評価されています。以下に、その主なメリットをまとめます。

Porticoのメリット

組織の持続可能性

Porticoは、1,000以上の図書館と数百の出版社(2,000以上の社会や協会を代表する)からの多様な資金源を有しており、安定した財務基盤を確立しています。短期および長期の財務計画による優れたビジネス慣行を取り入れ、学術コンテンツの長期的な保存とアクセス保証を持続的に提供しています。

推奨される方法

PORTICOの保存プロセスは、METSやOAISなどの業界標準に準拠して設計されており、デジタルコンテンツの信頼性と永続性を確保しています。

さらに、PORTICOはCenter for Research Libraries(CRL)による独立監査を受けた最初のデジタル保存サービスとして、図書館コミュニティに信頼されるソリューションとして認定されています。

関係と共同開発

PORTICOは、オランダ国立図書館や米国議会図書館、大英図書館などの主要機関と連携し、共同開発を進めています。

これにより、学術コンテンツの保存において最新の技術と基準を取り入れることができ、学術コミュニティ全体の利益に貢献しています。

明確な法的権利

PORTICOは、出版社とライセンス契約を締結しており、コンテンツを長期間保存し、必要に応じて移行や変換を行う権利を持っています。

また、特定のトリガーイベントが発生した場合には、保存されたコンテンツのアクセスを許可することができます。

アクセス権の保証

PORTICOに保存されたタイトルは、特定のトリガーイベントが発生した際に、参加機関の教職員、スタッフ、学生が広く利用できるようになります。

また、パブリッシャーが選択したタイトルに対しては、キャンセル後の永久アクセスを提供することも可能です。

これらの要素が、PORTICOを学術コンテンツ保存の最前線に位置づける要因となっており、広範な支持を得ています。

PORTICOの仕組みと技術基盤

長期保存のための技術とシステム

PORTICOは、高度な技術基盤を用いて、デジタルコンテンツの長期保存を実現しています。保存されたデータは、複数の地理的に分散したサーバーに保存され、物理的な損傷や技術的な障害から保護されています。

データ管理とバックアップの方法

PORTICOでは、データの管理とバックアップが徹底されています。定期的なバックアップやデータの検証が行われ、データの整合性が保たれています。また、保存されたコンテンツは、適切なメタデータが付与され、効率的な検索とアクセスが可能です。

トリガーイベントによるアクセス制限

PORTICOでは、通常時は保存されたコンテンツへのアクセスが制限されていますが、特定の条件(トリガーイベント)が発生した場合には、保存されたコンテンツへのアクセスが許可されます。これにより、コンテンツが失われることなく、必要に応じて利用者に提供される仕組みが確立されています。

PORTICOのユニークな特徴

他のデジタル保存システムとの比較

PORTICOは、他のデジタル保存システムと比較して、より堅牢で信頼性の高い保存を提供します。

特に、ダークアーカイブとして通常時はコンテンツを非公開にし、特定のトリガーイベント発生時にのみアクセスを許可する仕組みが特徴です。また、Center for Research Libraries(CRL)による認証を受けた信頼性や、METSやOAISといった業界標準への準拠もPorticoの優位性を支える要素です。

これらにより、PORTICOは、長期保存と適切なアクセス制御を両立しており、学術コンテンツの保護において他のシステムよりも優れた選択肢となっています。

トリガーイベントとは?

トリガーイベントとは、PORTICOが保存しているコンテンツへのアクセスを許可する条件のことです。具体的には、出版社がコンテンツの提供を停止した場合や、災害によるデータ損失などが該当します。

トリガーイベント例

PORTICOのトリガーイベント例

  • 出版社の業務の停止:出版社が業務を停止した場合。
  • 出版社によるタイトルの廃止:出版社が特定のタイトルを廃止した場合。
  • 出版社から提供されなくなったバックナンバー:出版社がバックナンバーの提供を停止した場合。
  • パブリッシャーの配信プラットフォームの壊滅的かつ持続的な障害が90日以上続いた場合:配信プラットフォームに重大な障害が発生し、90日以上にわたって復旧しない場合。

このようなトリガーイベントが発生した際に、PORTICOは保存されたコンテンツのアクセスを可能にし、研究者や学生が必要な学術資料に確実にアクセスできるようにしています。

PORTICOのJ-STAGE収録

J-STAGEにおけるPORTICOの役割

PORTICOは、J-STAGEの学術情報を長期保存するための重要なバックアップシステムとして、2018年10月からダークアーカイブサービスを提供しています。

このサービスにより、J-STAGEに掲載されたデータは、万が一の災害やシステム障害時にも安全に保管され、学術情報の損失を防ぐことができます。

通常時はもちろんJ-STAGEがデータ提供を行いますが、トリガーイベントが発生した場合には、PORTICOが代わりに参加図書館にコンテンツを提供します。

PORTICOは、J-STAGEから提供された電子ジャーナルの元ファイルを標準化されたデータ形式に変換して保存し、学術情報の永続的な保存とセキュリティを確保しています。このように、PORTICOはJ-STAGEの学術情報の安定的な提供と保護において、重要な役割を果たしています。
PORTICOのJ-STAGE収載誌は下記よりご確認いただけます。

https://www.portico.org/publishers/jstage/

まとめ

PORTICOは、学術コンテンツの永続的な保存を実現するための重要なツールです。

特に、デジタル形式で提供される学術コンテンツが増加する中、その保存とアクセス保証の役割はますます重要になっています。

日本では、J-STAGEがPORTICOのダークアーカイブサービスに参加しており、学術情報の長期保存と安定的な提供を支援しています。PORTICOの仕組みや技術基盤、トリガーイベントによるアクセス制御といったユニークな特徴が、他のデジタル保存システムとの差別化要因となっており、学術コンテンツの保護において重要な役割を果たしています。

参考

J-STAGE. (n.d.). J-STAGEのダークアーカイブサービスの提供開始について [PDF file]. Retrieved September 2, 2024, from https://www.jstage.jst.go.jp/static/files/ja/pub_darkarchive_release.pdf

J-STAGE. (n.d.). J-STAGEダークアーカイブサービスについて [PDF file]. Retrieved September 2, 2024, from https://www.jstage.jst.go.jp/static/files/ja/pub_Announce20221020_darkarchive.pdf

Portico. (n.d.). J-STAGE publishers. Retrieved October 11, 2024, from https://www.portico.org/publishers/jstage/

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学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム

学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。

専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。

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