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WAME(世界医学雑誌編集者協会)は、医学雑誌の編集者を支援し、学術出版の質を向上させるために様々な方針とリソースを提供しています。これには、透明性と倫理基準の確保に関するガイドラインや、AIの活用に関する推奨事項、ピアレビューの標準化などが含まれます。この記事では、WAMEが提供する「Manuscript Submission Checklist(論文提出チェックリスト)」をはじめとする重要なリソースや方針について詳しく解説し、医学編集者が論文を適切に評価し、信頼性を高める方法を紹介します。
WAMEとは何か?
WAME(World Association of Medical Editors:世界医学雑誌編集者協会)は、1995年に設立された非営利団体で、医学雑誌の編集者を対象とした国際的な組織です。 主に査読付き論文を発刊する医学雑誌編集者の国際協力や教育を促進することを目的としています。
※WAMEの読み方はワミー(pronounced “whammy”)と読みます。
WAMEの会員は、全世界の医学雑誌編集者に無料で開放されており、2017年時点で92カ国以上から1,830名以上のメンバーが参加しており、これは1,000以上の医学ジャーナルを代表しています。
WAMEは、世界中の医学雑誌編集者が互いに学び合う場を提供し、編集方針や参考資料の共有を促進することで、医学出版物の質の向上を目指しています。この組織を通じて、編集者たちは知識や経験を交換し、共通の基準を確立することができます。これにより、医学雑誌の編集プロセスの標準化と質の向上が図られています。
WAMEの概要と設立背景
WAMEは、医学研究の成果をより信頼性の高い形で発信するために設立されました。
医学出版においては、各国で異なる編集基準や慣行が存在するため、国際的な協力が不可欠です。WAMEは、これらの編集基準を調和させ、科学的・倫理的な医学出版を促進する役割を担っています。
WAMEの歴史とその役割
WAMEは1995年に設立され、医学編集の世界的な協力体制を築いてきました。1997年にはチェコ・プラハで最初の会議を開催し、その後も定期的に国際会議やイベントを通じて、編集者同士のネットワークを広げてきました。
医学出版の質を向上させるための研修や教育プログラムを提供することで、WAMEはグローバルな編集基準の向上に貢献しています。
WAMEの目標と使命
WAMEの使命は、世界中の医学雑誌編集者が協力し、医学出版の質を向上させることにあります。
具体的には、編集者間のコミュニケーションを促進し、ピアレビューや編集プロセスに関する標準を向上させること、そしてそれに基づく教育や自己規制を通じて、医学編集のプロフェッショナリズムを高めることを目指しています。
編集者間の国際的協力の促進
WAMEは、国際的な協力を通じて、各国の医学編集者が連携し、共通の基準を持つことを目指しています。これにより、国際的な医学研究がより効果的に発信され、研究の質が保証されることが期待されています。
編集者同士の連携は、医学分野における新たな発見や成果の迅速な共有を可能にし、医療の現場に即した情報提供が行われることを目指しています。
医学編集における倫理と科学の原則
WAMEの会員は、医学編集において高い倫理基準と科学的原則を守ることを求められています。これは、信頼性の高い研究を発信するために欠かせない要素であり、医療従事者や研究者が利用する情報の信頼性を確保するために重要です。WAMEは、自己批判と自己規制の文化を奨励し、会員が常に質の高い編集を行うようサポートしています。
WAMEは、医学編集者が自らのプロセスを継続的に改善し、編集の質を向上させるための自己評価を奨励しています。
自己評価と自己規制は、医学出版の透明性と信頼性を高めるための重要な要素であり、WAMEはこれらの取り組みを支援するため編集者のための無料のEラーニングやガイドラインを提供しています。
WAMEの活動内容
医学雑誌・医学出版に関する方針策定
WAME(世界医学雑誌編集者協会)は、世界中の医学雑誌編集者を支援し、学術出版の質と信頼性を向上させるために、さまざまな方針を策定しています。
これらの方針は、学術出版における透明性、公平性、倫理的な基準を確保し、編集者や著者が正しい手続きを守りながら質の高い論文を発表できるようサポートするものです。
例えば、AI技術の利用に関する指針や、出版倫理、ピアレビューの透明性を保証するためのガイドラインなど、広範な分野にわたる方針が整備されています。WAMEの方針は、学術雑誌の編集者が直面するさまざまな課題に対応し、グローバルな医学出版のベストプラクティスを推進する役割を果たしています。
以下は、WAMEが策定している主な方針の一覧です。
分類 | 方針名称 | 方針の内容 |
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倫理と専門性 | チャットボット・生成AIに関する推奨事項 | 学術出版における生成AIやチャットボットの利用に関する指針 |
捕食ジャーナルの識別 | 信頼性のない捕食ジャーナルを見分けるためのガイドライン | |
透明性とベストプラクティスの原則 | 学術出版における透明性の確保とベストプラクティスを定めた基準 | |
編集者の行動規範 | 医学雑誌編集者のためのプロフェッショナル行動規範 | |
医学雑誌の出版倫理方針 | 学術出版における倫理の遵守に関する包括的なガイドライン | |
編集長とオーナー間の関係(旧「編集の独立性」) | 編集者と雑誌のオーナーとの関係における独立性を確保するための方針 | |
著者に関する方針 | 著者資格 | 論文著者としての資格と責任を明確化するガイドライン |
商業企業によるゴーストライティング | 商業企業が関与する不適切なゴーストライティングを防止するための方針 | |
利害関係の管理 | 利害関係の衝突 | ピアレビュー付き医学雑誌における利害関係の明示と管理に関する方針 |
WAME編集部による利害関係の指針 | 利害関係の透明性を確保し、信頼性を維持するためのガイドライン | |
グローバルヘルスと政治 | 編集方針に対する地政学的干渉 | 政治的な干渉を防ぎ、編集の独立性を守るための方針 |
グローバルヘルスの推進 | 世界的な健康問題に対応するための編集者の責任を明確にした方針 | |
ピアレビュー | ピアレビュージャーナルの定義 | ピアレビューがどのように行われるべきかに関する基準 |
ピアレビュー操作の防止 | 著者によるピアレビューの操作を防ぐための基準 | |
出版関連の課題 | インパクトファクター | 学術雑誌の評価指標であるインパクトファクターに関する議論とガイドライン |
臨床試験の登録 | 臨床試験が適切に登録されているかを確認するための基準と手順 |
WAMEでは様々な方針を策定しております。その中でチャットボット・生成AIに関する内容と医学雑誌の透明性とベストプラクティスの原則について簡単に解説させていただきます。
チャットボット・生成AIに関する推奨事項
WAME(世界医学雑誌編集者協会)が策定した方針であるchatbots, Generative AI, and Scholarly Manuscripts: WAME Recommendations on Chatbots and Generative Artificial Intelligence in Relation to Scholarly Publicationsでは、生成AIやチャットボットが学術論文にどのように利用されるべきかについてのガイドラインを提供しています。
この指針は、チャットボットの利用が増加する中で、編集者や著者が透明性を持ってAI技術を活用し、学術出版の信頼性を維持するために役立ちます。
チャットボット・生成AIに関する推奨事項 主なポイント
- チャットボットは著者にはなれない
AIツールは「著者」としての法的地位を持たないため、学術論文にAIを著者として含めることはできません。著者は、人間である必要があり、AIによる助言や出力は適切に管理される必要があります。 - チャットボットの利用の透明性
チャットボットを使用して生成されたコンテンツについては、その利用方法を明確に記載し、研究や文章の作成にどのように関与したかを記述する必要があります。具体的なプロンプトや使用したAIツールのバージョン、生成されたデータの精度や信頼性も含めて報告することが推奨されます。 - チャットボットによる生成物の責任
著者は、AIが生成したコンテンツに対しても責任を負い、その内容の正確性、盗用の有無、および出典の適切な引用を保証する必要があります。AIによる偏りや誤りを防ぐため、徹底した検証と批判的評価が求められます。 - 編集者と査読者の役割
編集者や査読者は、論文の評価やレビュー作成時にチャットボットを使用する場合、その利用を明示し、AIによる生成物に対しても責任を持つべきです。また、チャットボットを使って論文の秘密情報を提供することは、機密保持の観点から禁止されています。 - AI検出ツールの必要性
チャットボットや生成AIが生成したコンテンツを識別するために、編集者は適切なデジタルツールを使用する必要があります。これにより、AIによる操作や改ざんが防止され、医学情報の信頼性が確保されます。
透明性とベストプラクティスの原則
この文書は、学術出版の透明性とベストプラクティスに関する原則を示したガイドラインで、Committee on Publication Ethics (COPE)、Directory of Open Access Journals (DOAJ)、Open Access Scholarly Publishing Association (OASPA)、およびWorld Association of Medical Editors (WAME)によって共同で作成されました。
これらの原則は、全ての学術出版物(特集号や会議の議事録を含む)に適用されるべきであり、出版の質と透明性を向上させるため広く共有されています。
透明性とベストプラクティスの原則 の主なポイント
- ジャーナル内容:
- 名前:ジャーナルの名称は独自性があり、他と混同されないこと。
- ウェブサイト:安全性が高く、読者や著者を誤解させない内容であること。
- 出版スケジュール:明確に記載され、予定通り発行すること。
- アーカイブ:デジタル保存計画があり、停止時にもアクセス可能な手段を確保すること。
- 著作権:著作権に関する情報を明確に示し、コンテンツごとに適用する。
- ライセンス:オープンアクセスの場合、ライセンス情報を明確にし、第三者への投稿規則も記載。
- ジャーナルの実践:
- 出版倫理:著者資格、苦情処理、研究不正行為の対処、利益相反、データ共有などの方針を策定し、公開すること。
- ピアレビュー(査読):プロセスを明示し、外部専門家が関与すること。
- アクセス:アクセス方法(登録や有料オプションなど)を明確に記載。
- 組織運営:
- 所有権と運営:ジャーナルの所有権や運営体制を明示すること。
- 諮問機関:編集委員会などの専門家リストを定期的に見直し、公開すること。
- ビジネス慣行:
- 著者料金:著者が負担する料金(例 APC:論文処理費用)を明確にし、免除制度がある場合はその基準も記載する。
- 広告:広告ポリシーを記載し、編集判断に影響を与えないようにする。
- ダイレクトマーケティング:適切かつ誠実に行われること。
これらの原則は、ジャーナルの運営者や編集者に向けたガイドラインとして機能し、学術出版の透明性と公平性を維持しながら、質の高い情報提供を目指すために策定されています。
医学雑誌編集者のためのサービス
WAME(世界医学雑誌編集者協会)は、方針の策定以外でも医学雑誌編集者向けの様々なサービスやリソースを提供しております。サービスやリソースは医学雑誌の編集者がその役割を効果的に果たすための強力な支援となるものです。
以下は、WAMEが医学雑誌編集者のために提供しているサービスの一覧です。
サービス名 | サービス内容 |
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WAME eラーニングプログラム | 会員登録後どなたでも無料でアクセスできるオンライン学習プログラム |
WAME Manuscript Submission Checklist(投稿チェックリスト) | 無料でダウンロード・使用・修正可能な論文提出チェックリスト。医学雑誌編集者が使用できる便利なツール |
WAME Listserve | ― |
WAME Newsletters | ― |
Covid-19リソース | ― |
編集者候補者および新任編集者のためのシラバス | 新任編集者や編集者候補向けの指導用 資料 |
倫理ケースディスカッション | 倫理的な問題に関するケーススタディ |
倫理相談 | 編集者が直面する倫理的な問題について相談できるサービス |
倫理Webリソース | 世界中の組織が倫理的な問題に関するウェブサイトへのリンク |
過去のWAME Listserveディスカッション | ― |
WAMEブログ | WAMEの公式ブログ。編集者向けの最新情報や知識を提供 |
様々な方針 | WAMEは、学術出版における透明性、ピアレビュー、倫理など、さまざまな方針を策定し、編集者が遵守すべき基準を提供 |
WAMEではこのようなサービスを提供しておりますが、WAME Manuscript Submission Checklist(投稿チェックリスト)について簡単に解説させていただきます。
WAME Manuscript Submission Checklist(投稿チェックリスト)
WAMEが提供する「Manuscript Submission Checklist(論文提出チェックリスト)」は、編集者が論文を審査する際に重要な要素を確認するための包括的なツールです。
このチェックリストには、倫理的基準、著者資格、利益相反、人工知能(AI)の使用、臨床試験の登録、データアクセスなど、論文の品質と透明性を確保するための項目が含まれています。以下に、このチェックリストの主な項目について詳しく説明します。
WAME 投稿チェックリストの主なポイント
WAME Manuscript Submission Checklistでは、以下の主要なポイントを含めて投稿チェックリストを作成しております。
1. 以前の出版または投稿の有無
提出された論文がすでにプレプリント(公開前の原稿)や他の形式で公開されているか、類似の内容が他の場所で発表されているかを確認します。重複する出版物や提出が許容されるか、または受け入れられない場合は、編集者が適切に対応する必要があります。
2. 資金提供やスポンサーの有無
論文の研究が資金提供やスポンサーシップを受けているかどうかを確認する項目です。特に、資金提供者やスポンサーが研究デザイン、データ収集、分析、または論文作成に関与しているかどうかを明確にすることが求められます。これにより、利益相反の可能性を評価し、論文の信頼性を高めます。
3. 著者資格
提出された論文に記載されている全ての著者が、雑誌の著者資格基準を満たしているかどうかを確認します。ゴースト著者(名前が表に出ていない貢献者)やギフト著者(研究に貢献していない著者)の問題を防ぐため、すべての貢献者が適切にリストされていることが必要です。
4. 人工知能(AI)の使用
論文または研究の一部で人工知能(AI)ツールや大規模言語モデルが使用された場合、その使用方法について詳細な情報を提供する必要があります。例えば、AIがどの部分で使用されたか、出力内容がどのように修正されたかなどの情報を提供し、透明性を確保します。
5. 臨床試験の登録
もし論文が臨床試験に基づくものであれば、試験が適切に臨床試験データベースに登録されているかを確認する必要があります。この項目では、臨床試験の登録番号や試験の詳細が明記されていることが求められます。これにより、バイアスを防ぎ、試験開始後の主要な結果測定の変更を特定できます。
6. 倫理審査委員会の承認
研究が独立した倫理審査委員会や動物倫理委員会から承認を受けているかどうかを確認する項目です。人間の参加者に対して書面または口頭でのインフォームドコンセントが得られているかどうかも重要です。倫理的な審査が適切に行われているかを確認し、研究の信頼性を保証します。
7. 研究プロトコルの公開
研究プロトコルが公開されているか、またはインターネット上でアクセス可能かどうかを確認します。公開されたプロトコルと提出された論文の内容が一致しているか、また、試験途中での変更が適切に説明されているかを確認する必要があります。
8. データへのアクセス
データの透明性を確保するため、研究に関連するデータがアクセス可能であるかどうかを確認します。最低限、著者が要求に応じてデータを提供する意思があることを示す声明を含めることが必要です。データが公開されている場合は、そのアクセス情報を明示します。
9. 研究報告ツールの使用
研究報告ツールが使用されているかを確認する項目です。正確な研究報告を確保するために、適切な報告ツールを使用しているか、チェックリストが適切に記入されているかを評価します。
10. 著者の証明
チェックリストの最後に、対応する著者が提供した情報が正確かつ完全であることを証明し、署名する項目です。これにより、提出された情報に対する責任が明確になります。
WAMEのManuscript Submission Checklistは、これらの項目を通じて、編集者が論文の品質、透明性、倫理的基準を確保するのに役立ちます。
このチェックリストは、編集者が提出された論文を適切に評価し、出版前に重要な情報を確認するための標準化されたプロセスを提供します。
まとめ
WAMEは、世界中の医学雑誌編集者が協力して、医学出版の質を向上させるための重要な役割を果たしています。WAMEの活動は、単なる編集者のネットワークを超え、医学研究の信頼性と透明性を支える基盤として機能しています。今後も、AI技術の発展や国際的な課題に対応しつつ、WAMEの活動は医学出版の未来を切り開く重要な存在であり続けるでしょう。
参考
World Association of Medical Editors. (n.d.). WAME policies. Retrieved October 23, 2024, from https://wame.org/policies
World Association of Medical Editors. (n.d.). WAME resources. Retrieved October 23, 2024, from https://www.wame.org/resources
World Association of Medical Editors. (n.d.). WAME homepage. Retrieved October 23, 2024, from https://wame.org/
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。