掲載記事数 |
---|
110記事 |
Wiley「出版倫理ガイドライン」は、学術コミュニティにとって非常に重要であり、その倫理基準が研究の信頼性と透明性を支える重要な役割を果たしています。このガイドラインは編集者や著者、研究者にとっての指針として、研究の不正防止や透明性の確保、著作権保護など、多くの倫理的課題に対応するための具体的な情報を提供しています。
学術情報発信ラボでは、この出版倫理ガイドラインの概要を共有し、その価値と実践方法を解説することで、学術分野における高い倫理基準の普及に貢献することを目指しています。
本記事では出版倫理ガイドラインの概要のみを示します。詳細は原本をご確認ください。
はじめに:出版倫理ガイドラインの背景と目的
出版倫理は、学術出版の信頼性を支える重要な要素です。
Wileyは、2006年に最初の出版倫理ガイドラインを発表して以来、学術出版業界の変化に対応してガイドラインを更新し続けています。2014年には、「Wileyの出版倫理ガイドライン:第二版」を発表し、編集者、著者、研究者などの幅広い関係者に対する包括的な倫理的指針を提供しました。このガイドラインは、研究の信頼性を維持し、出版物の品質を確保するための重要なツールとして、多様な学問分野において活用されています。
このガイドラインは、多様な読者層に適応できるよう、専門家の協力を得て策定され、倫理的な出版に関する国際的なベストプラクティスが取り入れられています。Wileyは、読者の信頼を確保し、研究コミュニティ全体にわたる透明性を高めることを目指しています。
出版倫理ガイドラインの概要
このガイドラインは、編集者、著者、研究者、図書館員、企業、学生など、幅広いステークホルダーを対象としています。
ガイドラインの作成に際しては、Wiley内外から多様な専門家が集まり、それぞれの視点から意見が反映されました。さらに、異なる学問分野や地域による出版倫理の違いにも配慮され、汎用性の高い内容となっています。これにより、学際的であるだけでなく、異文化や倫理的背景を考慮した出版プロセスを支援するガイドラインとしての価値が高まっています。
編集者や著者に向けた具体的なツールやリソースが随所に含まれており、特に倫理的な問題が発生した際に頼りになる内容が揃っています。
出版倫理の基本事項
このガイドラインは、出版における倫理的基盤を確立するための基本方針を示しています。
特に、透明性の確保、研究不正の防止、著作権の尊重などが強調されています。また、Wileyは出版倫理委員会(COPE)に加盟し、COPEの提供するツールやフローチャートを活用することで、出版倫理の遵守をサポートしています。
出版倫理のガイドラインには、編集者と著者が守るべき行動規範が含まれています。これにより、論文提出から出版までの過程で起こりうる不正行為や倫理的問題に対する対策を徹底することができます。
編集者・著者サポートシステム
Wileyは、編集者や著者に対し、出版倫理に関するサポートを提供する体制を整えています。
特に、出版倫理に関する問い合わせに対応する「Wiley倫理ヘルプデスク」が設置されており、必要に応じて専門家に相談することができます。また、ガイドライン内には、編集者が直面する具体的な倫理的問題に対する対応策が示されており、倫理的な問題が発生した際の初期対応として活用できます。
倫理サポートシステムは、学術出版を担う全ての関係者が円滑に業務を遂行できるようサポートする役割を果たしており、ガイドラインの実践においても重要な役割を担っています。
研究の健全性と倫理対応
研究の健全性を確保するため、データの捏造、改ざん、盗用などの不正行為に厳格に対応する方針を掲げています。編集者やジャーナル出版チームは、問題が発生した場合には、調査機関や関係機関に調査依頼を行うなどの対応が求められます。また、倫理的な疑問が生じた場合には、まず出版者と相談し、必要に応じて法的なアドバイスを受けることが推奨されています。
研究不正の疑惑に対する対応では、笛吹き行為(告発)についても詳細な指針が含まれています。特に、証拠に基づく通報があった場合には、編集者が適切な対応を取るためのガイドラインが示されています。
人権・プライバシー・機密保持
このガイドラインでは、人権やプライバシー、機密保持が特に重視されています。医学系研究などで人間の被験者を扱う場合、適切な倫理委員会の承認を得ることが義務付けられています。また、個人情報の取り扱いについても、プライバシー保護の観点から細かい指針が示されています。具体的には、非匿名化のリスクがあるデータや画像の公開には、事前に被験者の同意を得ることが必須です。
社会科学や人文科学の分野では、公開された音声・映像資料の使用においてもガイドラインが適用され、研究者は被験者の機密を守る義務があります。このように、分野ごとの特性に応じた指針が詳細に設定されています。
動物実験とバイオセキュリティへの対応
動物実験に関しては、動物福祉の観点から「3Rの原則」が推奨されています。3Rの原則とは、実験動物の「代替」「削減」「改良」を目指す倫理的枠組みです。
さらに、バイオセキュリティ(研究成果が善意と悪意の両面で利用される可能性)の懸念にも対応するため、二重利用研究に関するガイドラインが設定されています。
Wileyは、動物実験において倫理的基準を守ることが研究の信頼性を支える重要な要素と考え、編集者が動物実験に関連する倫理基準の遵守状況を確認できるよう指針を提供しています。
研究資金・利益相反の明示
研究資金や利益相反(COI)の明示は、研究の透明性を確保するための基本事項とされています。
著者には、研究資金の出所や提供されたサポートの内容を明確に記載することが求められています。また、利益相反の状況についても詳細に報告し、編集者はこれらの情報を読者に開示することを徹底しています。
利益相反がある場合には、研究者や編集者が独立した判断を行うことが難しくなる可能性があるため、透明性を保つことで読者の信頼を得ることができます。
再現性とデータの透明性の確保
再現性の確保とデータの透明性を重視しており、著者に対して研究の詳細な報告を推奨しています。
報告ガイドラインに従うことで、他の研究者が同じ手法で実験を再現できるようになり、研究結果の信頼性が向上します。また、データの透明性を確保することで、読者が研究内容を評価しやすくする効果も期待されています。
再現性が確保されることで、科学コミュニティ全体に貢献する質の高い研究が促進されます。
著作権と知的財産の保護
著作権と知的財産の保護が出版倫理の重要な一環とされています。
著者は、著作権譲渡契約(CTA)や独占ライセンス契約(ELA)を通じて、自身の研究成果を保護する権利を持っています。さらに、オープンアクセスのために、クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスが利用されており、学術情報の幅広い普及をサポートしています。
著作権保護の遵守は、著者や研究者が安心して成果を発表できる環境を作り出します。
まとめ
Wileyの出版倫理ガイドラインは、学術出版における信頼性と透明性を確保するための包括的な指針を提供しています。
これにより、編集者、著者、研究者、読者が一貫して高い倫理基準を共有し、学術出版の信頼性を向上させることが可能となります。ガイドラインを活用することで、各分野における出版倫理の理解と実践が促進され、学術コミュニティ全体の発展に寄与することが期待されます。
出典
Graf, C., Deakin, L., Docking, M., Jones, J., Joshua, S., McKerahan, T., Ottmar, M., Stevens, A., Wates, E., & Wyatt, D. (2014). Best practice guidelines on publishing ethics: A publisher's perspective (2nd ed.). https://doi.org/10.1002/adma.201403933
著作権情報:このページに掲載されているコンテンツは、Wileyによって作成されクリエイティブ・コモンズ 表示-非営利 4.0 国際 ライセンス (CC BY-NC 4.0) の下でライセンスされています。
学術情報発信ラボ 執筆・編集チーム
学術サポートGr.
学術情報発信に携わる編集チームとして、長年にわたり学術出版に関する深い知識と実績を有する。国内の数十誌にわたる学術雑誌の発行サポート経験を活かし「学術情報発信ラボ」の執筆チームとして、研究者や編集者に向けた最新のトピックや、研究成果の迅速な発信に貢献する情報を発信している。
専門分野は学術出版、オープンアクセス、学術コミュニケーションであり、技術的な側面と学際的なアプローチを交えた解説が特徴。